セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(83)の退任表明は、今後の同社の経営に影を落とす恐れがある。鈴木氏は会見で、辞任時期に関し「新体制に立候補するつもりはない」と話し、5月下旬の株主総会までに辞任する考えを示した。カリスマ経営者の突然の退場で、後任人事も含めセブン&アイは今後、難しいかじ取りを迫られる。(永田岳彦)
会社側提案として出されたセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長の退任案への賛成は7票。セブン&アイの取締役15人の過半数である8票には届かず、結果的に否決となった。同社の社外取締役は4人。会社側の提案に、“身内”の社内取締役の4人からは「ノー」を突きつけられた形だ。
鈴木氏にとっても、この結果には意外だったようだ。会見で鈴木氏は「社内役員から反対が出るようでは私が信任されていないということだ」と述べ、辞任を決断する理由となったと認める。
また、村田紀敏社長は「伊藤(雅俊)名誉会長から人事案にはんこをもらえなかった」と打ち明けた。イトーヨーカ堂創業家で大株主の伊藤家の同意が得られなかったことも、取締役の判断に影響したとみられる。だが、人事案をめぐって鈴木氏が伊藤氏と直接、会談した形跡はない。
鈴木氏は会見で、井阪氏の社長登用時から「任期は7年と考えていた」と述べ、交代は既定路線だったと強調した。
だが、セブン&アイが7日発表した平成28年2月期連結決算は、売上高に当たる営業収益が前期比0・1%増の6兆457億円、本業のもうけを示す営業利益が2・6%増の3523億円だった。営業収益は2年連続、営業利益は5年連続で過去最高を更新した。好業績を支えたのは、井阪氏が率いるコンビニ事業だ。
鈴木氏は「最高益を続けた社長が辞めるのは世間の常識が許さないということでしょう」とつぶやいた。
長年経営トップを担ってきた鈴木氏は、商品化の前に必ず自社商品を試食するなど83歳になっても陣頭指揮を執った。成果が上がっていない部署には容赦ない叱責をすることもしばしばあったという。鈴木氏の方針に反対を唱える空気は社内に乏しく、人事案についても社内取締役の反対はないと考えていた面もある。
鈴木氏の“ワンマン”ぶりが、会社を内紛状態に陥らせた要因の一つといえそうだ。