電力・エネルギー問題 緊急アンケート 中堅・中小企業経営者に聞く

2016.3.31 05:00

 □成長投資の足かせとなる電力コスト上昇 収益や設備投資を直撃

 東日本大震災から5年。原子力発電所の長期停止による電力コストの上昇が中堅・中小企業の経営・事業活動に大きな影響を及ぼしていることが、フジサンケイビジネスアイが実施した「電力・エネルギー問題に関する緊急アンケート」で改めて浮き彫りになった。日本経済の先行き不透明感が増すなか、中堅・中小企業はさまざまな経営課題を抱えているが、なかでも生産コストに直接跳ね返ってくる電力コストの上昇は頭の痛い問題。電力の安定供給や電力コストの上昇を抑制するために原子力発電所の再稼働を支持する声や、年々、負担が拡大する太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの更なる導入促進を危惧する意見が寄せられた。

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 調査は3月10~16日にかけて中堅・中小企業を対象に実施、製造業を中心に50社から回答があった。

 回答から浮かび上がるのは、原子力発電所の長期停止に伴う電力コストの値上がりに苦悩する企業の姿だ。とくに中堅・中小企業の場合、電力コスト上昇分を価格に転嫁できない構造的な問題を抱えている企業も多く、経営への打撃は深刻だ。

 資源・エネルギー庁によると、工場などで使われる産業用電気料金は、2014年度時点で震災前より全国平均で4割近い値上がりを記録した。発電コストの低い原子力発電所が長期停止を余儀なくされているからだ。その後、世界的な原油市況の下落で料金は低下傾向にあるが、それでも震災前の水準に戻っていない。経団連や日本商工会議所などが政府に安全性を確認した原子力発電所の早期再稼働を要請しているのも、こうしたコスト高の解消を求める声が企業から殺到しているからだ。

 アンケート結果を見ていくと、電力コストの上昇は経営者の実感として表れており、震災前より上昇しているとの回答は、45社にのぼった。電力コストの上昇が経営・事業活動に与える度合いは「大いに影響がある」が17社、「どちらかといえば影響がある」が14社だった。具体的な影響(複数回答)としては、「収益の減少」(57.5%)がトップで、「設備投資の減少」「省エネ対策の負担増」がともに17.2%という回答だった。

 昨年9月、川内原子力発電所(鹿児島県)が運転を再開し、「原発ゼロ」の状況は2年ぶりに解消されたが、安全性が確認された原子力発電所の再稼働について「進めるべき」と回答したのは27社だった。「進めるべき」理由(複数回答)をみると、「電力の安定供給ができる」(31.4%)、「電力コストの上昇を抑制できる」(28.6%)、「経済全体への悪影響が回避できる」(21.4%)などであった。

 また、国や関係機関などへの要望として寄せられた意見の中には、再エネ拡大に伴う国民負担の増大を含めた電力コストの更なる上昇を経営リスクと捉え、バランスのとれたエネルギー政策を望む声も聞かれた。

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 ≪エネルギー政策に関する国や関係機関などへの要望(自由記入)≫

 ・確固たる代替エネルギーが見つかるまで原子力の活用は避けられない。

 ・安全について、しっかり国民に提示して今後の原子力の利用計画を進めてほしい。

 ・資源のない日本の実情を考えると安価で安定的な電力供給は大きな課題。国際競争力の観点からも原子力の活用による安価・安定的な電力供給が必要。

 ・原子力発電所の再稼働に向けた国民理解の醸成にもっと力を入れるべき。

 ・環境負担が少ない再生エネへの期待が高いが、その導入促進をめぐっては課題も多く、バランスの取れた政策を望む。

 ・再エネへのシフトが加速すると、賦課金の負担がますます上昇することは目に見えている。電力コストの高騰で瀕死の状態に陥っている電力多消費型の製造業に向けた対策を講じてほしい。

 ・中小企業が電力コストを低減し、収益を上げることが日本全体の経済活性化につながる。

 ・2030年度のエネルギーミックスの実現と、実現のための総合的なエネルギー政策の促進を望む。

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 □原子力発電の再稼働で電力コスト低減と安定供給の実現を

 ■電力コストの低減を成長投資に

 工場などで使われる産業用電気料金が、全国平均で4割近く上昇した背景には、震災後、原子力の代わりに火力で電力を賄う状態が長く続き、化石燃料の輸入が大幅に増加したことにある。

 今回のアンケート結果から見えたのは、その影響が、企業収益の減少に直結していることはもとより、設備投資の減少や省エネ対策の負担増にまで及んでいることだ。

 企業経営において、省エネによるコスト低減は、震災前からの課題の一つであったが、震災後、電力コストの高騰により、これまで以上に省エネ設備への投資を余儀なくさせられていることも事実。企業の成長に直接寄与しない、いわゆる守りの設備投資に追われている様が浮き彫りとなった。

 本来であれば、その設備投資コストは、前向きな設備投資に充てられ、企業収益の拡大をもたらすべきものであったはずだ。原子力発電所の長期停止による電力コストの上昇というエネルギー問題が、企業収益ひいては日本経済に影を投げかけている。

 中堅・中小企業における収益拡大は、「経済の好循環」の実現を目指す安倍政権も大きな課題と位置付けている。

 国内雇用者の7割は中堅・中小企業に勤務しており、これら従業員は、日本の国際競争力の源泉でもある。こうした従業員に適切に配分する賃金の原資を確保するためにも電力コストを低減し、これを成長投資につなげることで企業収益を着実に増やす必要がある。

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 ■もう一つのリスク~再エネ賦課金の呪縛~

 電力コストの上昇には、原子力の停止に伴う輸入燃料費の増に加え、もう一つの要因がある。「再生可能エネルギーの発電促進賦課金」いわゆる「再エネ賦課金」だ。2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)は、再エネの普及促進を目的に導入された制度で、再エネの買取費用を電気料金に上乗せして、電気利用者から回収し、再エネ事業者に支払う仕組みだ。

 制度導入当初は、「コーヒー1杯分程度」の負担で再エネが普及すると喧伝されており、確かに12年度における一家庭当たりの年間負担額は約800円だった。その後、高い買取単価を背景として、太陽光を中心に普及が急速に進んだ結果、16年度の一家庭当たりの負担額は年間8100円に拡大する。当初に比べて10倍以上の水準だ。これはあくまで一般家庭の場合で、中堅・中小企業の場合、16年度の年間負担額は89万円に膨れ上がるという試算もある。

 忘れてはならないのは、例えば、太陽光であれば、買取期間が10~20年間に及ぶということ。つまり、その間、負担額が上がることはあっても下がることは決してないのだ。

 企業経営への影響は極めて大きいといえよう。今回のアンケートでも、再エネ賦課金の上昇により経営が圧迫され「瀕死の状態に陥っている」という、悲鳴とも聞こえるような製造業の経営者からの声が寄せられている。

 再エネは、発電時にCO2を出さない環境性に優れた電源であり、地球温暖化防止の観点から最大限の導入が期待されている。しかしながら、そのコストを再エネ設備の有無にかかわらず、全国民・企業が負担していることを再認識し、導入と負担のバランスをとる制度の見直しが望まれる。

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 ■震災から5年、地に足のついたエネルギー政策を

 電力コストの引き下げには、発電コストが他の電源と比べて低い原子力発電所を再稼働させることが何よりも有効だ。国が検証した電源別の発電コストを見ると、震災後、原子力停止に伴う緊急避難的な代替電源として使われた石油火力の発電単価は30円超、普及が進む太陽光や風力は20円超であるのに対し、原子力は、追加の安全対策費用などを勘案しても10円超と、コスト面での優位性は際立っている。

 実際に、関西電力は、高浜発電所3、4号機が再稼働すれば燃料費の節減が見込めるとして、電気料金の値下げを公表していたが、2基の運転差し止めを認めた大津地裁の仮処分決定を受け、値下げの延期を表明した。近畿圏での企業活動や生活にマイナスの影響が出るのではないかとの懸念がある。

 大津地裁は新規制基準の安全性にも疑義を示し、政府の原子力政策を真っ向から否定した形となった。高度で専門的な知識が必要な原子力発電所の安全性の判断を司法に委ねることには違和感があり、原子力発電所の安全性は行政の判断を優先するとした最高裁判例に逸脱している疑いもある。乱訴が続き、基本計画に基づく国のエネルギー政策が揺らぐことのないよう、電力コストの低減と安定供給につながる原子力政策への政府の明確な対応を今こそ求めたい。

 電力コストの低減と安定供給をいかに実現していくのか。そして、企業が電力コストに過剰な負担感を感じることなく、自らの得意分野に集中し、前向きな設備投資を行い、持続的な成長を遂げていくためには何が必要なのか。

 わが国のエネルギー自給率は、主要先進国の中でも最低水準のわずか6%にとどまる。資源のないなか、エネルギーのベストな組み合わせを考える上で、原子力発電が果たす役割は大きい。資源小国の日本が原子力発電を有効活用できていない現実は不幸である。

 震災から5年が経過した今でもなお、政府や電力会社には、原子力発電の必要性や重要性を改めて訴え、国民の不安を払拭する努力が問われていることは言うまでもない。それと同時に、私たち国民もより現実的な視点から原子力発電に向き合う時期に来ている。

 資源小国の日本においては、安全性が確認された原子力発電所の再稼働を進め、エネルギーミックスの実現を目指すことこそが、電力コストの低減と安定的な電力供給を可能とするのだ。

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