■エネルギー回生システムを制震に応用
高層建物の制震装置として、各社が開発にしのぎを削る油圧ダンパー。鹿島が昨年7月から導入している「HiDAX(ハイダックス)-R」は、自動車のブレーキ制御などで用いられているエネルギー回生システムの原理を建物の制震に初めて応用した画期的なものだ。
2011年の東日本大震災では、震源から遠く離れた東京都内の超高層ビルがゆっくりと長時間揺れ続ける「長周期地震動」が出現、対応策が課題となっており、鹿島の技術は解決策の一つとなりそうだ。
油圧ダンパーに回生システムを応用するアイデアは、1人の研究者のひらめきから生まれた。
12年秋の休日の昼下がり。自宅のダイニングで、ポットから沸き立った湯気を眺めていた構造設計統括先進技術グループの栗野治彦・統括グループリーダーは「エネルギーの形を変えないで使えばいいんだ」とつぶやくやいなや、数学モデルを紙に書き込んだ。課題だった油圧ダンパーの制震効率を高めるアシスト力として、振動エネルギーをそのまま補助タンクに蓄える方法にたどり着いた。翌週、構造設計統括グループの福田隆介・チーフエンジニアらと本格的な開発が始まった。
「思いつくまでは大変だったが、その後は実用化に向けて一本道だった」(栗野さん)と振り返るように、油圧ダンパーに使う制御弁の小型化や部品数の合理化などいくつかの課題はあったものの、壁にぶつかることはなかった。構造設計のコンピュータープログラムが専門の福田さんは「シンプルなオイルダンパーの回路図から勉強し始めた」と振り返る。福田さんの起用は、社内に油圧技術の専門家が少なく、専門家を増やしたいという栗野さんの深慮もあった。