今回、日本企業が変わったのは、次々と外堀が埋まったからだ。機関投資家の株主としての行動規範を示した「スチュワードシップ・コード」が昨年導入され、従来、企業経営者にとって安定株主だった生命保険会社などがモノ言う株主に変わり始めた。東証は高ROE企業で構成する新指数「JPX日経インデックス400」を導入。規模が大きくてもROEが低い会社は「脱落」する仕組みになったことで、元来横並び意識の強い企業経営者の間に「焦り」を生んだ。
今年に入ると金融庁と東証が共同で事務局を務める有識者会議が、上場企業の「あるべき姿」を示すコーポレートガバナンス・コードをまとめた。そこに、複数の社外取締役を置くことや、持ち合いで保有している株に、具体的な合理性があるか説明することなどが盛り込まれた。経営者からすれば、すっかり外堀が埋まったのである。
社外取締役を入れれば自動的にROEが上がるわけではない。だが、外部の人に説明のつかない無駄な資産や事業を持ち続けることは難しくなる。手元資金をため込んで配当や自社株消却などの株主還元に後ろ向きな姿勢を取れば、株主総会で個人投資家からも責められることになる。
日本企業を変えるという長年の「信念」を実現して引退する斉藤氏の胸中はすがすがしいに違いない。
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【プロフィル】磯山友幸
いそやま・ともゆき 早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務めて、2011年に独立。52歳。