ものづくりのあり方を変革する「第4次産業革命」の波が、日本にも押し寄せようとしている。ただ、すべてがネットにつながれば、当然、製造に関する情報もオープン化される。このため、独自の製造ノウハウを蓄積して利益を上げてきた日本企業は、この波に及び腰だ。
「現場で築いたノウハウが利益の源泉。これがオープンになるのは正直怖い」と打ち明けるのは、精密機械メーカーの幹部だ。
人件費の安い海外企業と戦ってきた日本の製造業は、トヨタ自動車の「かんばん方式」に代表されるように、独自の生産方式を確立して利益を上げてきた。
だが、IoTの世界は、あらゆるモノにセンサーを取り付け、大量情報を共通基盤で処理して最適に制御する。現場で築いたノウハウも一瞬でのみ込まれる可能性がある。
その第4次産業革命を牽引(けんいん)するのはドイツだ。2011年から「インダストリー4・0」と呼ばれるプロジェクトを展開。シーメンスやボッシュなどが中心となり、IoTに関する独自規格をつくって、主導権を取ろうとしている。
4月に開催した産業見本市「ハノーバーメッセ」には、インドや中国企業が多く出展し、大盛況のうちに幕を閉じた。メルケル首相も会場に足を運び、4・0を世界にアピールした。
一方、米国では複数のIoT団体があるが、その代表格がIICだ。IICは4・0と異なり、海外企業の参加も可能だ。世界の優良企業を集め、世界標準にしようとしている。
新しい波に及び腰だった日本企業も、ここにきて動き出した。IICに参加した東芝は、「変革の波に取り残されないため、情報収集をしている」(インダストリアルICTソリューション社の天野隆技師長)という。
本来であれば、日本が主体となり、国を挙げて、IoTの標準化づくりを行う場所があるのが理想だ。日立製作所情報・通信システム社の小野寺剛企画本部事業戦略部長は、「IoTは世界の潮流。波に乗り遅れれば、日本の製造業が弱体化する。規格づくりを含め、日本にもIoTを推進する団体が必要だ」と危機感を募らせる。
政府は23日、総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)で、次期科学技術基本計画に日本もIoTを産官学で取り組む方針を盛り込んだ。欧米に比べれば、一回り以上遅れてしまったが、ようやく国も重い腰を上げた格好だ。
それでも、現場で築いたノウハウをIoTを通じて公開したがらない企業も多いとみられ、「どこまで産官学連携できるか未知数」(経済産業省幹部)との声もある。
第4次産業革命の波が押し寄せる中、世界の潮流を無視し、独自路線を貫くのか、それとも、オールジャパンで周回遅れを巻き返すのか-。日本の製造業が大きな岐路に立たされているのは間違いない。