□「木馬」アーティスティックディレクター・渡辺敬子
心は色や形に込められ、それを目にし、手に取り、胸を震わせた者の内奥へとたちまち入り込んで、新しい美が創造されていく。しなやかで鋭敏な感性は、心地よいリズムを織りなす彩りの重なりの中で響きを深くし、りんとして慈愛に満ちた精神は、丹念な手元をしのばせる端正なたたずまいと精妙な風合いに溶け込んでいる。
東京に本拠を置き、パリをはじめ米ニューヨーク、カナダのトロントやスペインのバルセロナなど海外に拠点を持つ「木馬」は、繊細で洗練された感性と、揺るぎない技術と品質を色と形と風合いに示したリボンやレース、飾りひもなどのパスマントリーで国際的な名声を集める。高品位で透徹した物づくりは、世界の名だたるデザイナーやクリエーターをうならせ、彼らが誇る服や靴、バッグや帽子、アクセサリーやインテリア、衣装や生花、料理などの創造物に取り入れられ、それぞれが手にしている精華にいっそうの輝きを与える。
「1933年に京都市でつづれ織りの職人の息子として生まれた父は、小さな頃から着物や帯、織物に囲まれて暮らしていました。リボンの問屋に奉公すると東京勤めとなり、仕事一筋を貫いて一代で会社を築きました。自らデザインを手がけて支持を広め、製品はいつでも誰でもすぐに手に入れられるシステムをつくり上げました」
勤勉で審美眼に優れた創業者は、子供の頃からファッションが大好きで感覚が鋭く、厳格な理論の構築に適したドイツ語を専攻した娘にデザインをはじめとする物づくりを託した。
「これは何用のリボン、このパスマントリーは何用と用途を限定していません。原則として特注はお受けしません。それでも5万点に及ぶ製品の中から必ず心に響くものが見つかります。そのためには、私たちがつくったものは、どれもこれ以上なく完成されたものでなければなりません。インスピレーションを与え、想像力をかき立て、創造性を呼び覚ますものでありたいと思います」