2014.1.6 10:30
平成26年が明けた。日本経済は昨年来の景気回復の兆しを本物にしていくことができるのか。経済3団体のトップに聞いた。(早坂礼子)
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□経団連会長 米倉弘昌氏
■いよいよ民間が景気牽引
--今年の日本経済は
「4月から消費税増税の影響があるだろうが、5兆5千億円の経済対策が下支えする。その後は1%半ばのプラス成長が見込まれ、総じて明るい年になるだろう」
--成長は規制緩和が鍵を握る
「政府には抜本的な規制制度改革をやってほしい。そうすれば民間投資が刺激されるし、海外からの投資も喚起できる。税制では今年3月末で復興特別法人税が1年前倒しで廃止されるから、次は法人実効税率の引き下げだ。減税で経済成長を促せば、企業業績が上向き、税収が増え、債務の削減につながる。財政再建と経済成長を両立させる絶好のチャンスだ」
--環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は
「越年は仕方がない。昨年末の閣僚交渉がまとまらなかったということは各国が国益確保に向け真剣に交渉している証左だ。議論を見守りたい」
--中国や韓国とはきしみが目立つが
「政治的に厳しい環境に直面しているが、日中韓は自由貿易協定(FTA)交渉を粛々と進めている。各国とも経済的な協力関係を必要としている。経団連も今年5月までには中国に訪問団を出したいと思っている。3月にはオーストラリアとニュージーランドにも経済使節団を出す。民間外交で経済連携交渉を後押ししたい」
--安倍内閣への注文は
「これからいろんな規制改革を実施していくうえで省庁間の縦割り闘争が激しくなる。首相のリーダーシップで押さえ込んでほしい。忘れてはならないのが震災復興とエネルギー問題だ。安全性が確認された原子力発電所は地域の住民・自治体の同意を得て速やかに再稼働してほしい」
--今年のキーワードは
「“民間力の発揮”だ。政治が安定してビジネス環境の改善に向けた改革が進んでいるが、日本経済を引っぱるのはわれわれ民間企業だ。景気の好循環が実現できるように、設備投資の増額や雇用の創出、賃金の引き上げに努めていく。いよいよ民間の出番だ」
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□日本商工会議所会頭 三村明夫氏
■エネ政策の早期正常化を
--昨年11月に会頭に就任した
「改めて、大きな組織だと感じる。スタッフの数は全国514の商工会議所で1万人。126万の会員は日本の企業数の3分の1だ。各地方では商工会議所が企業の生の声を吸い上げ、要望などをとりまとめる中心機関になっている。行政からの信頼も厚い。日本の経済は明るくなってきたが、日商の会員が回復を実感できるまでは本当の回復ではないと思っている」
--4月に消費税が上がる
「中小企業の平均利益率は2%だ。増税分を最終価格にきちんと上乗せできなければ赤字に陥ってしまう。(増税分を)スムーズに上乗せできるよう役所には監視員が置かれるし、日商でもチェックを行う。中小・零細企業が共同で引き上げ分の価格転嫁を目指すカルテルも容認されているし、制度的な枠組みはこれ以上ないほど講じられている。それでも中小企業はみな、心配している。取引先に増税分を払ってくれと言いづらいからだ。だから政府が求めている賃上げにも踏み切れない。消費税はみんなが払うもので、どこかにしわ寄せがあってはならない」
--望ましい市場水準は
「為替は1ドル=100円前後。株価は1万6000~1万7000円だ。円安にはいい点も悪い点もある。輸出企業の業績が改善し、国全体でプラスになっているが、化石燃料を購入するために年間約4兆円の外貨を出している。円安を是とするなら、原子力発電所が停止している日本のエネルギー政策をできるだけ早く正常化していくべきだろう」
--今年のキーワードは
「“国のリセット”だ。企業はデフレマインドから脱却して設備投資や賃上げマインドにリセットしなくてはならない。自分の国に自信を持ち、成長へ向けて行動すべきだ。韓国や中国との関係改善に必要なのは経済の成長だ。日本とつきあうことはあなたの国にとっても意味があると見せつけなくては。アベノミクスを徹底して日本を成長軌道に乗せることが一番の近道になる」
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□経済同友会代表幹事 長谷川閑史氏
■勇気を持って賃上げせよ
--今年の日本経済は
「1にも2にも3にも経済再生。まず経済を復活させて安定成長の路線に乗せることだ。平成32年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させる国際公約があると、財政規律を重視する人がいるが、財政赤字が縮小傾向に向かっていれば、達成目標が1年や2年遅れたところでたいしたことはない。景気が良くなれば税収10兆円も夢ではない。日本の巨額の累積赤字は、経済成長とインフレで解決していく以外にない」
--政府は企業に賃上げを要請している
「日本は、どこの国も経験したことのない20年間のデフレを経験した。それを克服するには誰もやったことのないことをやらないと解決できない。それが『大胆な金融緩和』『機動的な財政出動』『民間投資を喚起する成長戦略』のアベノミクスの3本の矢だ。いまは3本目の矢を引いているところだ。物価が上がり始めており、4月に消費税率も上がる。賃上げをしないと景気を冷やしてしまう恐れがある。賃上げをやれるところはしっかりやったらいい」
--既得権益者の抵抗にあってなかなか緩和できない岩盤規制は
「TPPに正式参加することを踏まえ、農業法人を株式会社化するとか、農業協同組合(JA)を通さずに自分たちで流通・販売をするとか、地方の現場で良い傾向が出ている。あとは雇用、医療、介護だ。全部を一緒にはできないし時間もかかるだろうが、安倍晋三政権は優先順位をつけて岩盤規制の打破をどういう手順でやっていくかを考えているはずだ。そのためにも安倍首相にできるだけ長く務めていただきたい」
--今年のキーワードは
「“リスクテーク”だ。賃上げなど勇気を持ってリスクをとりなさいということだ。国の存在力は(1)経済力(2)軍事力(3)この両方を背景にした政治力・外交力(4)文化-の4つ。軍事力に依存しない日本には経済力しかない。強固な経済力を背景に、政治・外交力を発揮していくべきだろう」