発電用の放水は、長野県側の湖岸にある取水口から取り入れて地下水路を約10キロ下り、完全地下式の黒部川第四発電所(クロヨン)に送られている。電力を生み出す水は一度も地上に現れず、われわれの目に触れることはない。
ちなみに、毎秒10トン放水する観光放水で使う水の量は、発電で使う水量の7分の1ほど。夏の電力需給の逼迫(ひっぱく)を思うと、「その分も発電に回せたらいいですが…」と関係者は苦笑した。
総工費は資本金の5倍!
経済成長期の電力需要に応えるため、世界銀行の融資も受けて関電の資本金の5倍に当たる513億円という巨額の総工費を投じて建設された黒部ダム。「世紀の難工事」となった建設工事では作業員ら171人が殉職し、技師らの苦闘を描いた映画「黒部の太陽」は昨年再上映されるなど、話題を呼んだ。
週2日の稼働休業日を設けざるをえないなど、深刻となっていた関西の電力不足を救い、経済成長を担った水力発電だったが、時代の移り変わりとともに主役は火力や原子力へと移っていった。総発電量に占める割合も、低下の一途をたどってきた。