昭和7年5月、松下幸之助は大阪市北区の中央電気倶楽部に社員を集め、「通行人が水を盗み飲んでも、とがめだてはない。生産量が豊富で無尽蔵に等しく、価格があまりに安いからだ。ここに産業人の使命がある。すべての物資を水のように無尽蔵たらしめよう」と説いた。
有名な「水道哲学」が誕生した瞬間だ。幸之助は80年余り前、既にコモディティー市場を志向していた。
津賀一宏社長は「海外の貧困国では、水道哲学を実践する必要がある」と唱えるが、海外市場で水道哲学を実践し、急成長を遂げてきたのは、パナソニックではなく、韓国のサムスン電子やLG電子だろう。
値崩れの小さいBtoBビジネスへの「転地」は、明らかに水道哲学とは一線を画す戦略だ。
7月31日発表の4~6月期連結決算(米国会計基準)は、最終利益が前年同期比8.4倍の1078億円と過去最高を記録したが、売上高は伸び悩み、固定費圧縮に負う部分が大きかった。
しかし、単なる利益重視の商売では、「崇高な経営理念に裏打ちされた幸之助時代の繁栄」(関係者)を取り戻すことはできない。
水道哲学を捨てるのであれば、それに代わる“新哲学”を打ち立てなければ、泉下の幸之助は泣いてしまうだろう。