パナソニックと幸之助イズム “主役不在”逆境どう立ち向かう?

2012.12.2 08:15

パナソニック創業者の松下幸之助氏

パナソニック創業者の松下幸之助氏【拡大】

 2年連続で7500億円以上の最終赤字を計上する見通しとなったパナソニック。テレビに替わる「次の主役」が見当たらず、三洋電機の買収によってグループ社員数が増え、固定費がふくらむなど収益回復の糸口は見えない。6月に就任した津賀一宏社長に求められるのは、新たな成長分野の創出とともに、幸之助イズム(創業者の松下幸之助氏の経営理念)でさえ、状況によってはゼロベースで考え直す大胆な経営改革かもしれない。

 創業者の理念だけでは立ちゆかない

 「今のパナソニックは、松下幸之助氏の経営理念だけでは立ちゆかない状況に陥っている」。ITジャーナリストの大河原克行氏はこう指摘する。

 「経営の神様」と呼ばれた幸之助氏の経営理念は普遍的なものが多く、現代でも十分に通用する。パナソニックにとどまらず、韓国サムスン電子などライバル企業や家電以外の異業種でも、幸之助氏の考え方を経営に活用してきた企業は多い。

 今から約10年前、パナソニックが業績不振に苦しんでいたとき、当時の中村邦夫社長(現相談役)が「創業者の経営理念を除いて聖域は設けない」と述べたのは有名な話。つまり経営危機においても「幸之助氏は絶対」だったというわけだ。

 過去の歴代社長、幹部などは「迷ったときは『創業者ならば、どうしただろうか?』と問い続けた」といった意味の言葉をたびたび語っている。しかし、幸之助イズムについて、ある業界関係者は「産業界の中でも家電業界は最もダイナミックに動いている。普遍的とはいえ、幸之助イズムに縛られ、ときに経営判断が遅れる場面もあったのはないか」と推測する。

 5年間の赤字総額は2兆円以上

 パナソニックは今期を含む直近5年間のうち4度も最終赤字に陥り、赤字総額は2兆円超におよぶ。まさに非常事態だけに、前出の関係者は「幸之助イズムを否定すべき、とまではいわないが、すべてをゼロベースで見直さないと復活できない」と強い口調で話す。

 その上で、「津賀社長は今のパナソニックを『負け組』と述べ、次の手を打とうとしている。再び成長軌道に乗せることができるかもしれない」と期待を寄せる。

 10月31日に行われた4~9月期連結決算発表の席上で、「デジタル家電で負け組になっている」「20年前から(パナソニックは)低収益、低成長」と素直に認めた津賀社長。しかも、再参入したばかりの欧州携帯電話事業について撤退を表明し、前社長の経営判断をばっさり切り捨てる、という過去のしがらみにとらわれない大胆さも併せ持つ。

 家電業界は韓国、中国勢などの台頭とともに、デジタル技術でコモディティー化(汎用化)が進んだため、値崩れが激しく、メーカーの収益を悪化させてきた。それだけに、津賀社長の“スピード”決断を評価する声は多い。

 稼げる技術がない

 業界では、今春から秋にかけて経営が一気に傾いたシャープの再建にむけた動きに注目が集まったが、実は「シャープよりもパナソニックのほうが状況は深刻だ」と指摘する関係者は少なくなかった。 

 パナソニック、シャープとも経営不振に陥った理由は似通っている。パナソニックはプラズマ、シャープは液晶、と両社とも薄型テレビ向けを中心とするパネル事業への過剰な設備投資が収益を圧迫させ、今の経営危機を招いた。

 ただ、シャープは現時点でライバル企業にはマネできない次世代液晶技術「IGZO(イグゾー)」を持ち、今のパナソニックには他社を圧倒する「稼げる技術」「稼げる商品」がないのが実情だ。

 また、三洋電機の買収で連結社員数は約33万人にまで膨らんでいる。これに対し、シャープは約5万6千人にとどまり、ソニーでも約16万人とパナソニックの半数以下。このため同じ社員1万人を削減しても、パナソニックとシャープ、ソニーでは収益に与えるインパクトが大きく異なるのだ。

 「幸之助イズムも状況に応じては見直す」。こんな一言が発せられれば、社内に衝撃が走るだろう。しかし一方、社員は危機の深刻さを共有し、新たな一歩を踏み出すきっかけになるかもしれない。

 何よりも、経営の神様はこう言うのではないだろうか。「まだ、わしの言葉に縛られていたのか。経営は時代に応じて変化させていくものだ」と。

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