それでも「契約を更新する7月1日からは、値上げをお願いしますから」と念を押すのを忘れなかった。すでに川口商工会議所は東電に対する料金不払い運動を始めており、田中専務は「商工会議所と足並みをそろえなければいけないから」と、この日も値上げ受け入れを拒否した。
だが、田中鋳物は7月から値上げを受け入れる方向だ。「溶鉱炉もクレーンも電気がないと動かない。鋳物業にとって電気は血液と同じ。電気を止められるのが一番怖い」。その恐怖が田中専務の背中を押した。
田中鋳物に対する値上げ幅は約16%で、電気料金は月額70万円も増える。従業員10人程度の町工場に重い負担がのしかかる。安価な輸入品に押され、厳しい値下げ競争を強いられるなか、値上げ分を製品単価に上乗せするのは困難だ。コスト増をどう吸収するか、田中専務はまだその方策を見いだせていない。
夜間料金は40%値上げ
大企業も東電の一方的な値上げを拒否し続けることは難しい。
スクラップを電気で溶かして鋼材を製造する電炉業界は、電気代が製造コストの25%を占める。料金の安い夜間しか操業していない工場がほとんどだが、今回の値上げは昼も夜も関係なく同額を値上げするため、夜間電力で比較すると値上げ幅は実に40%にもなる。