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観光回復へ華やぐ工事中の道後温泉、アートスポット切り札になるか

 松山市の観光名所、道後温泉が華やいでいる。国の重要文化財・道後温泉本館は保存修理工事の真っ最中で、正面玄関も鉄骨で覆われ見慣れた光景からかけ離れているが、そこから徒歩数分の場所にある道後温泉別館飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)の広い中庭一面に、ぱっと華やかな花の写真が敷き詰められている。アートな新スポットとして、コロナ禍に見舞われた観光回復のための切り札になるか注目される。

 ハダカヒロバ

 本館の保存修理工事は平成31年1月から始まり、令和6年12月まで続く。営業を継続しながらの工事という特徴があり、コロナ禍の休業期間が明けた10月1日から営業をしている。

 工事の影響を少しでも抑えようと、松山市が今回、繰り出した新たな仕掛けが「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」だ。

 飛鳥乃湯泉の中庭を「ハダカヒロバ」と名付け、写真家・映画監督の蜷川実花さんによる屋外インスタレーションを展開している。

 いっぱいに花の写真を敷き詰め、壁面やオリジナルちょうちんも合わせ、作品数は約230点に及ぶ。写真の大きさは縦横ともに1・2メートル。赤やピンクなどの色鮮やかな花の風情が広がっている。

 蜷川さんは「私自身、花の持つ力に支えられてきましたし、ひどく落ち込んでしまうようなことに直面したときに花を撮ることで己を保てているな、と感じることが何度もありました」とし、コロナ禍を念頭に「先の見えない不安なことも多い世の中ですが、見てくれた人の背中を少しでも押すことができたらうれしい」とするコメントを寄せている。

 インスタレーションは10月27日から始まった。初日は道後湯之町検番の芸者2人が「正調伊予節」など2曲を舞い、イベントの開始を祝った。夜はちょうちんの明かりがともり、温泉地らしいしっとりした雰囲気になっている。

 遊び心満載のだまし絵

 プロジェクトは、本館から道路を隔てた場所にある休憩所「振鷺亭(しんろてい)」でも行われており、こちらでは、松山市在住のテクニカルイラストレーター、隅川雄二さん(68)の遊び心満載の作品を展示している。

 隅川さんは一定の距離と角度から見ると立体的に浮かび上がって見える「だまし絵」技術が得意で、本館の「神の湯」に入浴しているような写真を撮影できる仕掛けが目を引く。「つもりの愉(ゆ)」と名付けた作品で、筋肉自慢に見えるような半身パネルなど小道具もそろえ、訪れた人たちが笑顔になる工夫を凝らしている。

 隅川さんは「琴線に触れる部分はみんな異なる。どういうことが面白いのか。普段見えない部分を見せて差し上げるのが、私の仕事です。楽しんでくれたら」と笑顔で話した。

 展示されている「令和乃道後温泉鳥瞰(ちょうかん)絵図」は、本館の1~3階の工事終了後の完成予想図を正確に描いており、手前に描かれたシラサギの目からのぞき込むと、すべての絵が重なって見事に立体的な一枚の絵になる。

 振鷺亭の屋根にも3Dアート「足湯の寄合」があり、近くの丘にある「道後温泉 空の散歩道」の足湯から見下ろすと、夏目漱石や正岡子規ら道後温泉にゆかりのある人物たちが浮かび上がる。

 観光客回復なるか

 プロジェクトの一環として、オリジナルARコンテンツも公開している。「道後の地熱は、人の熱」をコンセプトに、「人」の顔と湧き上がる「泡」をモチーフにし、スマートフォンなどでインスタグラムを起動すると、シンボルデザインが踊りながら湧き上がる。

 松山市を訪れる観光客はコロナ禍で大幅に減っている。令和2年は前年比32・7%の減少だった。道後温泉(本館、飛鳥乃湯泉、椿の湯の3施設)の入浴客は約60万2100人で、前年比42%以上も減っていた。

 今年も休館期間が長く厳しい状況が続いたものの、この秋以降は徐々に回復のきざしが見えてきた。道後商店街にある飲食店の店員は「このところようやく人通りが増えたようだ」と安心した様子で話した。

 プロジェクトについて、隅川さんは「にぎわい創出のお手伝い。こういうところがあちこちにあって、来た人が楽しみ、驚き、感動してくれて、SNSなど媒体を通して情報が広がれば、道後の観光客は戻ると思います」と期待を寄せた。プロジェクトは令和6年2月29日までを予定している。(村上栄一)