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いま“会社の部活動”が熱い!? 好きが高じて「オタ活」「猫」グッズ販売も

SankeiBiz編集部

 社内交流の一環として取り入れる企業が増えているという部活動。昔ながらのスポーツ系にとどまらず、「猫部」や「オタ活部」など活動内容が想像しにくい部活も登場するなど、盛り上がりをみせている。ビジネスにつながり、オリジナルグッズの商品化やブランドの立ち上げに成功した例もあるというから、まさに好きこそものの上手なれ、だ。学校の部活動とはかなり様相を異にする社会人の部活とはどんなものなのか。

 会社にも収益もたらす「招き猫」

 「社員が通常携わっている業務に関係なく、興味関心のある好きなテーマについて考え、ゆくゆくは事業化も目指し取り組むことができる社内制度として20年以上前から部活動を取り入れている」と話すのは、雑貨や食品を扱う神戸市の通信販売会社「フェリシモ」の広報部の中島健太郎さん。社員の約3割が何らかの形で部活動に関わり、毎週水曜の午前中に活動しているという。

 同社に14ある部活の中でも“全国区”の知名度を誇るのが猫部だ。2010年から猫グッズの企画や販売などを手掛け、猫の顔を描いたマシュマロ「ニャシュマロ」のほか、「猫用和布団」や猫にひっかかれた際に使う傷絆創膏「にゃんそうこう」などのヒット商品も次々と生まれている。猫好きの社員たちによる部活動が新たな顧客を獲得し、会社にも収益をもたらす「招き猫」になった。動物の保護活動を応援する募金付きの商品も生まれ、売り上げの一部は里親探しの団体などに寄付されている。

 フェリシモにはさらにユニークな部活もある。オタ活部もその一つだ。正式名称はオタク活動推進部。「男性でも、女性でもアイドルが好き」という同社ファッションMC統括グループ課長代理の山川真記代さんは、迷わずオタ活部に入部した。

 好きなアイドルについて楽しく語り合っている部活かといえば、さにあらず。オリジナルグッズだけでなく、「推し色」をおしゃれに楽しむブランド「OSYAIRO」(おしゃいろ)まで立ち上げたというから本気度が違う。ちなみに、「推し色」の「推し」とは、好きなアイドルグループの中でも最も応援しているメンバーを指し、推薦するという意味の「推す」に由来する。特定の趣味に熱中する「オタク」と呼ばれる人たちの間で頻繁に使われる言葉らしい。

 オタ活部の部長を務める山川さんは「観劇の時にぴったりのオタ活部で開発した観劇バッグもある」と胸を張る。チケットやオペラグラスが入る専用ポケットを備えたバッグだ。劇場などで販売されているA4サイズのパンフレットがそのまま入るのが特徴で、SNSを通じて話題になったという。

 経団連の福利厚生費調査結果報告(2019年度)によると、会社が負担する文化・体育・レクリエーション費用は1人あたり2069円。このうち活動への補助は1326円で、決して高くない。やはり学校での部活動と異なり、社会人の部活環境はまだそれほど充実しているとはいいがたいだけに、フェリシモの部活環境はかなり恵まれているといえそうだ。

 オタク文化は奥深く、例えば「萌え」という概念も一言で説明するのは難しい。最近は「萌え」ではなく「推し」という言葉が多用されるようだが、いずれにしても、事情に精通していない者が「オタク」向けの商品を開発するのはハードルが高い。商品化できたとしても「オタク」の人たちのニーズに合わないケースもあるに違いない。

 ビジネスパーソンならではの部活動

 「推ししか勝たん」「神」「最高かよ」…。「推し文字」と呼ばれる推しへの思いを表現した手書き風のメッセージを爪に施すことができる商品「ときめく推し文字ネイルシール」を開発したのは、フェリシモのファッション事業部主任、皆川絵利奈さん。キラキラした推し文字をデザインしたジェルネイル風のネイルシールはゴールドとシルバーの2種類。好きなアイドルとの握手会などに「推し文字」を施したネイルで臨み、ファンとしても「推しに愛を伝えることができるし、自分も気合を入れることができる」(皆川さん)。アイドルファンを中心に人気を集めているという。

 就業時間内の活動。それは部活動なのか、あるいは業務の一環なのか。フェリシモによると、部活動は事業性、社会性、独創性の「3つの和」が重なる場を目指しているという。「好き」を「カタチ」にできれば、それだけ情熱をもって取り組むことができる。さまざまな趣味を持つ社員の部活動から、新しい事業の芽がボトムアップで創出される可能性があるというわけだ。「小さくスタートして、大きな事業につなげることもできる」(山川さん)のはやはり、ビジネスパーソンならではの部活動といえそうだ。

 商品開発や広告に関わる部分は利益を出すことも目標にしているが、リスクを抑えるため、商品のロット(取引単位)を小さくしたり、SNSで広告したりといった工夫をしている。山川さんは「上から『やりなさい』と言われてやっているわけではないので前向きに取り組める。好きだから『やりたい』と思える」と部活動に満足している様子。あくまで部活動ではあるが、商品化にあたり困ったことがあれば、会社がサポートする態勢も整っているという。

 中島さんはこう強調する。

 「会社が事業計画を立てて商品の開発をしようとすれば、ビジネスとしてのうまみを最初から見つけ、トレンドに合わせて当て込むことも必要になる。さまざまな制約もある。しかし、部活動ならボトムアップで新しいイノベーションも生まれてくる。そこが一番いいところだと思う」

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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