バイクやイスのような形をした車体を空気で膨らませる、やわらかな電動モビリティ「poimo(ポイモ)」が、千葉市・幕張メッセで17~19日開催の「デジタルコンテンツEXPO2021」で高い注目を集めた。poimoは「Portable and Inflatable Mobility」の頭文字をとった名称通り、インフレータブル(空気膜構造)の軽量な車体が特徴。空気を抜けば小さく折り畳んで持ち運ぶことが可能なうえ、素材が布地である特性を生かし、ユーザーの体格や乗り方に合わせた1台をカスタマイズすることもできる。東京大学大学院とメルカリの研究開発組織「mercari R4D」による共同研究で、短距離移動のパーソナルモビリティとして、来年には社会実装に向け実証実験を検討している。
「社会に革新を起こす技術」に選出
デジタルコンテンツEXPOは最先端のデジタルコンテンツ技術が一堂に会する国際イベント。直線的な外見の最新機材が並ぶ会場で、丸みを帯びたデザインのpoimoは一際目立っていた。「社会にイノベーションを起こす革新的な技術」を意味する「Innovative Technologies」として出展された最新モビリティというと小難しくてお堅いイメージだが、充填された空気でパンパンに膨らんだポリウレタン素材の車体はずいぶんと愛らしい印象だった。
やわらかな素材でできたpoimoだが、電動バイク型の車体にまたがると、想像以上にしっかりとしたボディ剛性を感じた。剛性の理由は「ドロップスティッチファブリック」という特殊な生地構造にある。膨らむ部分に張り巡らせた無数の糸が空気を充填すると伸張し、高い剛性が生まれる仕組みになっている。
電動バイク型は小型のブラシレスモーターとリチウムイオン電池で駆動する。最高時速15キロで、1回の充電でおよそ1時間作動する。総重量はおよそ9キロとスポーツバイク並みの軽さだ。ハンドルやモーター、バッテリーなどは小型・軽量化し、折りたたんだ時にかさばらないように工夫している。
空気を抜けば、本体部分はバックパックに入るほどのサイズに折り畳むことができ、持ち運びや収納にも便利だ。形状はバイク型の他に、ソファ型や車椅子型などを展開している。
車体の素材にやわらかな布地を使うpoimoは、ユーザーの体格に合わせて衣類のようにカスタマイズすることもできる。
例えば電動バイク型を設計する場合、ユーザーは作りたいバイクをイメージしながら椅子に座るなどして乗車ポーズを撮影し、画像をもとに抽出した3次元情報から専用ソフトがユーザーのポーズに合わせた形状・大きさの車体を3次元モデルで設計する。そのデザインをベースに、ユーザーはハンドルや座席の位置などをさらに調整。モビリティとしての強度や安定性、操作性が損なわれないよう、設計パラメーターは自動修正される仕組みになっている。
完成したデザインはそのまま発注可能なデータとして出力され、完成したpoimoは空気を入れるだけの状態となって発注者の元に届くというサービスを想定している。
「服のようなモビリティに」
そもそも、なぜインフレータブル構造のモビリティを開発しようと思ったのか─。
同プロジェクトの研究員で法政大学デザイン工学部の准教授、ソン・ヨンアさんによると、人とコンピューターの関わり方を研究するヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)の分野やロボット工学の分野では近年、poimoのような「やわらかさ」や「変形」を用いたユーザーインタフェースの開発が注目を集めているという。その視線が最近話題の「MaaS(Mobility as a Service)」の一翼を担うパーソナルモビリティにも向けられた格好だ。
電動キックボードなど最近街中でも見かけるようになったパーソナルモビリティと比べ、poimoは「非使用時の可搬性や収納性に加え、対人の衝突安全性やカスタマイズ性にも優れている。パーソナルモビリティの新分野を開拓できる可能性がある」(ソンさん)という。
poimoは最新技術を用いて社会課題にアプローチした点が評価され、同展示会を主催するデジタルコンテンツ協会の「DCAJ会長賞」と、インタラクティブテクノロジー分野の世界最大の学会「ACMシーグラフ」への参加資格が与えられる「特別賞」のW受賞を果たした。
共同研究チームは無線給電や自動運転などの技術との組み合わせも視野に、今後さらに開発を進める方針。来年以降は社会実装に向けて、私有地での実証実験を開始する予定だという。
「空気の充填方法なども含め、まだまだデザインの余地はある」というソンさん。布地という素材特性を生かし、「最終的には衣服を着脱するように、必要に応じてスムーズに取り出し・収納できるモビリティを作れたら」とさらなるイノベーションに向けてイメージを膨らませている。