中華料理チェーン店「日高屋」などを展開するハイデイ日高の2021年3~8月期の決算は、売上高が前年同期比19%減の113億円だった。フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さんは「コロナ禍で苦戦しているが、同社の財務基盤は健全だ。アフターコロナを見据えた強気の出店戦略は評価できる」という--。
■生産性が高い業態・商品構成
ハイデイ日高(本社:埼玉県さいたま市/代表取締役社長:高橋均)の2021年3~8月期の単独決算は、売上高が前年同期比19%減の113億円、営業損益が26億円の赤字(前年同期20億円の赤字)だった。
首都圏で展開しているのが特徴で、都道府県別では東京都209店、埼玉県111店、神奈川県70店、千葉県51店、茨城県3店、栃木県1店となっている(21年8月末)。これは、埼玉県行田市に擁するセントラルキッチンを、食材の調達・製造・物流の中核としているからだ。これによって全店舗の安定したクオリティーと低価格を維持することができている。
21年3~8月期の店舗展開は17店舗出店(東京都8店舗、埼玉県4店舗、千葉県4店舗、神奈川県1店舗)、退店が4店舗で445店舗となった。業態別の店舗数は「日高屋」(「来来軒」含む)が405店舗、「焼鳥日高」(「大衆酒場日高」含む)が29店舗、その他が11店舗となっている。店舗展開の展望については「首都圏600店舗体制に向けた安定的な新規出店」とある。
主要業態の「日高屋」は、いわゆる「町中華」のメニューに加えておつまみを充実させて酒類売上が高い。同チェーンでは飲みでの利用を「ちょい飲み日高」と名付けている。
同社のデータによると、コロナ禍前の20年2月期(19年3月~20年2月)の時間帯別の売上構成は開店から20時までが約60%、20時から閉店までが約40%となっている。「ちょい飲み」が充実していることによって、夜の売り上げの比率が高い。
また、コロナ禍前は約400店舗で400億円ほどの年商があった。1店舗あたりの年商は約1億円となり、店舗面積の目安が23~50坪ということから非常に生産性が高い。これを類似の他のチェーンと比べると、リンガーハットの場合は1店舗当たりの年商が5875万円となっている(19年2月期、筆者調べ)。
■コロナ禍が持ち味を直撃
この「日高屋」の持ち味をコロナ禍が直撃した。営業時間、酒類提供等については政府・自治体の要請に従って営業を行っている。ちなみに営業外収益に計上した時短要請協力金は21億1900万円となっている(21年8月末までに入金されたもの)。
酒類販売比率を見ると、コロナ禍前の19年2月期16.7%、20年2月期16.6%と数値は安定しているが、コロナ禍で時短要請があった21年2月期は14.3%となった。それが、21年3月11.7%、4月10.6%、5月1.2%、6月4.4%、7月7.2%、8月0.2%となった。
また、おつまみの対売上比率も減少した。20年2月期のおつまみの対売上比率は8.8%、21年2月期は8.3%だったのに対し、21年の8月と9月は約3.0%となった。時短営業と酒類の販売を休止したことは客単価を押し下げることになった。
さて、同社の特徴と21年3~8月の業績の動向を照らし合わせると以下のようになる。また、それによって被ったコロナ禍のデメリットを克服するための一般的な対策を挙げた。
・総店舗数445店舗(21年8月末)に対し1都3県が441店舗、総店舗数の99%とこのエリアに店舗が集中している。コロナ禍で1都3県に緊急事態宣言が断続的に発出されたためにほとんどの店舗で影響を受けた。これらを回避するためには、展開エリアを分散化する必要がある。
・通常時の酒類販売比率が17%弱となっているが、時短営業によって酒類が売れる時間帯が短くなり、また酒類の販売を休止したことでこの売り上げがなくなった。これらを回避するためには、酒類販売に依存しない業態を開発する必要がある。
■テイクアウトの力をつける
コロナ禍の飲食業界はKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)やマクドナルドといったテイクアウトに強い業態が“特需”のように業績を伸ばした。それに倣って、これまでテイクアウトに力を入れていなかったテーブルサービスの業態がテイクアウトやデリバリーに参入するようになった。
「日高屋」でも21年3~8月をこのような飲食業のトレンドに沿う形で歩んできた。テイクアウトでは“できたてアツアツのお弁当をお手頃価格で”とうたい「日高弁当」を500円(税込、以下同)、580円、600円等でラインアップした。また、店内で得意とする「おつまみ」をセットにして590円で販売した。これらは着実に実力をつけていき、直近8月には月間売上2億円、全店売上の13%を占めるようになった。また、全店の4分の3に相当する約340店舗で出前館によるデリバリーが実施できるようになった。
新商品・期間限定メニューはリピーター・新規客ともに注目を集めた。夏季に販売した「冷麺」640円は食べ応えがあり、現在も継続している「天津丼」530円は、ライバルである餃子の王将の類似商品群の528円にぶつけて、消費者の選択肢を広げている。
■首都圏を知り尽くす企業文化
出店立地として、これまで酒類が売れないロードサイドの店舗を閉店したり新規出店を避けてきたが、再びロードサイドに着眼するようになり、21年3月11日に「日高屋 岩槻インター店」、4月23日に「日高屋 野田16号店」をオープンしている。さいたま市大宮区の住宅街を抜ける国道17号線沿いの「日高屋 大宮大成店」は以前、ちゃんぽん専門店の「ちゃんぽん 菜ノ宮」として営業していた店舗を「日高屋」としてモデルチェンジしている。
22年2月期の下期では新規出店を5店舗予定しており、うち3店舗がロードサイドとなっている。
ハイデイ日高の「物件情報募集」を見ると、出店エリアは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県となっている。これも行田工場を中核としたこれまでの物流網の中で600店構想に邁進していく構えということだ。ちなみに、これと同じエリアの飲食店店舗数のトップはマクドナルドの約900店舗となっている。
■首都圏での強さを盤石にしていく
このような首都圏集中出店は自社競合が心配されるが、多様な業種・業態によってクリアしてきた。本社のあるJR大宮駅周辺には、東口に7店舗、西口に5店舗存在する。これらの内訳は「日高屋」4店舗、「焼鳥日高」2店舗、「来々軒」2店舗、「中華一番」「とんかつ日高」「らーめん日高」「大衆酒場HIDAKA」各1店舗である。酒類提供で客単価が上がる業態から、とんかつ、ラーメンといった食事目的の業態までバランスよく配置している。集中出店が行われていても、自社競合を回避できているポイントがここにある。
ロードサイド立地は駅前立地が持つ酒類提供の強みを発揮することは難しいが、駅前立地でつくり上げた「安定したクオリティーと低価格」という知名度の高さが顧客ロイヤルティーを醸成して集客につながる。
ハイデイ日高の首都圏600店舗構想がもたらす最大の強みは「首都圏を知り尽くす」ことだ。この出店戦略は一朝一夕でつくり上げることは無理で、1973年に創業の店を大宮に構えて以来、50年の年月によって培われた。
これらを背景にして自己資本比率85%という健全な財務基盤を生かし、ぶれることなく首都圏600店舗構想を進めていくことは、アフターコロナにおいてこれまでの強みが復活することに伴い、首都圏での「日高屋」の強さを盤石にしていくことであろう。
千葉 哲幸(ちば・てつゆき)
フードサービスジャーナリスト
1958年生まれ。青森県出身。早稲田大学教育学部卒業。経営専門誌である柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
(フードサービスジャーナリスト 千葉 哲幸)