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イケア本社で見た「オフィス向け家具」の可能性 働き方変わり職場環境への波及狙う

SankeiBiz編集部

 日々の生活に満足感を与える家庭用家具が人気のイケア・ジャパンが中小企業などを対象としたBtoB(企業間取引)に注力している。新型コロナウイルス禍で働き方が大きく変わる中、社員らが交流しやすい新たな職場環境が求められるようになり、オフィス向けに商機が生まれると考えられるためだ。イケアが一般販売している製品をオフィスに導入してもらう方針で、コストにもデザインにも強みがあるという。巣ごもり需要をとらえたコロナ禍の勝ち組に攻めの手を緩める様子はないようだ。

受付女性がゲーミングチェアに

「朝から座り続けていても、腰や背中が疲れないように設計されています」

 千葉県船橋市にあるイケア・ジャパン本社。受付の女性が座っていたのは、ゲーム愛好者向けに作られたイケアの「ゲーミングチェア」だ。ゲーマー向けの家具やパソコン周辺機器はカラフルなものが多いが、受付で使われているものは黒、または白をベースにした落ち着いたデザインで“会社の顔”であるエントランスにあっても違和感がない。

 本社に勤める社員は約200人。出社するのは多くても100人で、感染症対策によりリモートワークが取り入れられると出社する人はさらに減った。こうした中でイケアは8月、リモートワークで不足しがちなコミュニケーションを促進し、仕事の効率化を進める目的でオフィスの改修を行った。

 改修の一例では、社員らが飛沫対策のアクリル板越しに向かい合ってソファーに座り、リラックスして会話をしつつ、必要に応じてプロジェクターに資料を映し出すことができる歓談スペースが設けられた。オフィスの片隅を吸音性のある素材を使ったパーティションで区切り、周囲を気にすることなく国内外の社員らとテレビ会議できるようになった。また、集中して仕事をしたい人のために灰色のカーテンで区切られたスペースを作った。

 備品として使われる家具は、イケアの店舗で購入できるものばかりだ。しかし主張しすぎないデザインでオフィスにフィットしているので、BtoC(企業と一般消費者の取引)のイメージが強いイケアの製品だと気付くことは難しいだろう。イケアの家具はオフィスでも活躍する--そこにイケア・ジャパンの戦略があった。

自社製品ゆえの強み

 イケア・ジャパンで法人向け事業を担当する佐川季由(きよし)氏は「売上の約10%を占めるBtoBを成長させ、従業員50人以下の『スモールビジネス』のお客様を支えていきたい」と話す。

 同社はオフィスなどをリニューアルする顧客からの相談に応じてレイアウトを作成するビジネスを展開している。設置を提案する机や椅子は、もちろんイケアの製品。顧客のリクエストを汲み取り、知り尽くしている自社製品の中から家具やインテリアを選ぶので、デザインだけでなく予算においても最適な提案ができるというわけだ。

 昨年はオフィスのほかレストランや病院の待合室など約1100件を手掛けた。ニトリなどの競合企業も進出している分野だが、佐川氏は「スウェーデンでデザインされたシンプルなデザインはさまざまな職場に馴染む。機能性と品質が高く、保証期間も長い」と自信をのぞかせる。

 また、7月には中小企業やベンチャー企業向けに新しいメンバーシップクラブ「IKEA Business Network」を立ち上げた。入会費や年会費は無料で、家具の割引やインテリアデザインの相談、ビジネスの基礎を学ぶオンライン講座などの特典を受けられる。また、先述のレイアウト作成サービスも割引価格で利用できる。

 イケア・ジャパンがそうだったように、社員同士のコミュニケーション促進を狙ったオフィス作りを求める声は小さくない。だが多額の費用がかかることを懸念し、オフィスのリフォームやレイアウト変更に二の足を踏む企業は多いという。イケア・ジャパンは適正価格と家具のクオリティーを武器に、こうした中小のニーズを取り込みたい考えだ。

 帝国データバンクによると2020年度の国内の家具・インテリア販売市場(事業者売上高ベース)は約1兆5000億円で、過去最高を更新した。イケア・ジャパンもBtoCの巣ごもり需要で業績を伸ばした1社で、新型コロナ禍が落ち着きを見せる中、リモートワークとオフィス出勤のバランスは改めて見直され始めており、BtoBの取り組みを本格化させている。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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