サービス

その名も「シンゲンランド」 武田信玄の地元・山梨の観光地をつなぐMaaS事業

SankeiBiz編集部

 山梨県内の人気の観光エリアをテーマパークのように気軽に巡回しやすくするための実証事業が、11月中の休日限定でスタートした。景勝地やワイナリーなど人気の観光資源が集まる甲府市と峡東3市(山梨市・笛吹市・甲州市)一帯を「シンゲンランド」と名付け、ICT(情報通信技術)を活用した交通サービス「MaaS」(Mobility as a Service)として、バスやタクシーで各観光地をシームレスにつなぐ移動手段を構築した。紅葉で知られる昇仙峡エリアでは、渓谷沿いの公道を走る車いす型の新型モビリティを国内で初めて導入し、マイカーなしで楽しめる観光スタイルを充実させたい考えだ。

 コンセプトは“テーマパーク”

 実証事業の舞台となる4市はワイナリーなどの観光資源が集まる人気の観光エリアだが、見どころ同士の距離が離れており、観光ニーズに沿った移動手段が整備されていないことが課題だった。今回の実証事業ではこのエリアをご当地甲斐国の戦国大名、武田信玄の名にちなんだシンゲンランドと名付け、分散しているスポットをテーマパーク内のアクティビティのようなイメージでつなぎ、効率的に巡ることができるようにした。

 実証事業では4市周遊バスや観光地の間をダイレクトにつなぐバスを運行。スマートフォンで使えるデジタル周遊パス「シンゲンパス」(中学生以上2000円、小学生1000円、未就学児無料)で、終日自由に乗り降りできるようにした。シンゲンパスで巡ることができる先は、昇仙峡行き路線バスや昇仙峡ロープウェイ、石和温泉甲州シャトルバスなど、厳選された秋の名所を設定。観光地情報や観光地までの経路検索、専用交通サービスの決済、シンゲンパスの利用まで、スマートフォン1台でできるのもポイントだ。

 また、実証事業と同時期に開催するイベント「ワインツーリズムやまなし」では、マイカー移動でなくても広範囲のワイナリーを巡れるようにタクシーの利便性を向上。10台稼働させる「AI乗合タクシー」は、同じワイナリーを目指す乗客同士が効率的に乗り合えるよう、AIが配車依頼の情報からルートを最適化する。1日乗り放題のタクシーチケットに、土日連続の2日間の「シンゲンパス」を加えた「シンゲンパス+ワイナリー」(中学生以上7,000円、小学生1,000円、未就学児無料)として利用できる。

 長崎幸太郎・山梨県知事は11月3日の現地での記者発表で、「東京からのマイカー来訪は渋滞問題に悩まされる一方、電車で訪れる観光客に対しては(電車を降りた後の)二次交通が充実していないことが山梨観光の課題だった」との認識を示し、「やまなし観光MaaSがこれらの悩みを解消する切り札となることを確信している」と期待を示した。

 県知事「観光課題を解消する切り札に」

 この他、紅葉が人気の昇仙峡エリアでは、車椅子型の観光モビリティ「PiiMo」(ピーモ)を稼働させた。複数の車両が行列になって走るシステムで、後方車両のレーザーセンサーが前方車両の反射板の位置を自動追従する。先頭車両にはスタッフが乗るため、乗客による操作は一切不要。屋外観光地での公道走行は国内初といい、これまで空港、駅などで実証実験を積み重ねてきた。

 走行ルートとなる渓谷沿いの道はかつて道産子馬の観光遊覧馬車「トテ馬車」が走行していたという。トテ馬車がなくなった2017年以来、客足が途絶えていたこの道に再び観光客を呼び戻したいとの思いから、時速4キロという馬車と同等のスピードで走行するPiiMoの導入を決めた。天神森市営駐車場と羅漢寺橋の間の約4キロを、スタッフによる観光ガイドを聞きながら片道1時間程度かけて走行する。

 同日、昇仙峡で開催された「出発式」に出席し、PiiMoに試乗した長崎知事は「景色もゆっくり堪能でき、テーマパークのアトラクションのようで楽しい。これなら子供からお年寄りまで誰でも楽しめる」とPRした。PiiMoの乗車はシンゲンパスの対象外。1組4人まで乗車可能で、予約不要の先着順。現地で別途1人1000円の料金が必要となる。

 実証事業は3日からの土日祝日限定で、計10日間を予定している。検証結果を踏まえ、来年度に向けて実用化を目指す方針だ。やまなし観光MaaS推進協議会の雨宮正英会長は「意気込みとしては、これは実用化実験。来年度からの常設化を目指すともに、この観光MaaSを県内の他のエリアにも展開したい」と意欲を語った。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。