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スーパーの張り紙は効果抜群? 家庭の食品ロス削減…消費者庁の知られざる苦悩

SankeiBiz編集部

 消費者庁の新未来創造戦略本部がまだ食べられる料理や食品を廃棄する「食品ロス」の家庭での削減に向け、スーパーマーケットを舞台にしたメッセージ発信に取り組んでいる。なかでも注目するのは、レジで支払いを終えた買い物客が品物を袋に詰める「サッカー台」の天板。事前の調査で注目の集まりやすさが分かっており、食品ロス削減を呼びかけるポスターなどを重点的に貼りだすという。戦略本部がスーパーに狙いを定めるのは、2019年に食品ロス削減を目指す法律が施行された後も、家庭への働きかけが難しいため。地道な努力の積み重ねで課題解決に近づきたいという。

毎日茶碗1杯分の食品ロス

 「昨年10月から11月にかけてスーパーマーケット20店舗で食品ロス啓発活動の効果を調査したところ、ポスターはサッカー台の天板に掲示することが効果的だと分かりました」。新未来創造戦略本部の担当者はこう話す。

 徳島県に本拠地を置く戦略本部は県内での調査に際して、「『もったいない』は日本の誇り」という標語や、国民1人あたりの食品ロス量は「毎日茶碗1杯分のご飯の量」にあたると訴えるポスターを、店舗入口や店内のさまざまな場所に掲示。その結果、来店客が足を止め、購入した品物を買い物かごからレジ袋に移し替えるときに視線を落とすサッカー台の天板上の視認率が35%で最も高いことが分かったという。

 また、ポスターに書かれた食品ロス量を正しく答えられるかを調べたところ、一般客の正答率が調査前の42%から63%に向上しており、社会課題の理解にもつながったこともうかがえた。

 こうした結果を受けて、今年は「買い物前には家にある食材を確認」「使い切れる分だけ買う」「食べられる分だけ調理」の“3カ条”を訴えるカラフルなポスターを四国エリアのスーパーマーケットのサッカー台などに掲示していく。新しいポスターは消費者庁の公式サイトで公開されており、担当者は「どなたでもダウンロードして使えるので、四国以外の店舗でも使ってもらえれば」と期待を込めた。

家庭ばかり狙い撃ち?

 環境省と農林水産省の推計によると18年度の食品廃棄物などの総量は2531万トンに上り、このうち食品ロスが600万トンを占めた。

 内訳をみると、食べ残しや賞味期限切れなどによる直接廃棄などの家庭で生じるタイプが276万トン、食品製造業や外食産業などの事業活動で生じるタイプが324万トンだった。消費者庁などはこの数値を根拠に「食品ロスの半分は家庭から」と訴えている。

 消費者庁は決して家庭だけを“狙い撃ち”にしたいわけではない。ただ、「一昨年10月に食ロス法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が施行されて、国や自治体と事業者が連携できるようになりましたが、家庭に対しては呼びかけにとどまっているのが現状」(環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室)という苦悩がある。

 事業者に食品ロス削減の対応を求めることはできても、一般消費者の台所に入り込んで食卓を変えさせることはできず、実効性の高い施策を打つのは難しい。実は2012年以降、食品ロスの量は減少傾向にあるが、「人口減少にともなって、ごみ全体の総排出量が減ったことが影響した」(同省のリサイクル推進室)ということが分かっているだけで、具体的な理由は判然としない。近年は社会全体でSDGs(持続可能な開発目標)の推進に取り組み、食料を無駄にしない姿勢が強まっていることについても、食品ロス削減への貢献の程が分かるのはこれからだ。

糸口が見つからなくても

 昨年は新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言を受け、外出自粛やデリバリーの普及といった買い物をめぐる環境の大きな変化があったが、環境省の調査では家庭での食材ロスの量・頻度については約90%の人が従来と変わらなかったと答えている。

 家庭の食品ロス問題を解決する糸口は見つけにくく、対策は消費者に意識向上を求めるものになりがちだ。食ロス法は10月を「食品ロス削減月間」、同月30日を「食品ロス削減の日」と定めており、消費者庁は今年、料理好きで知られるお笑いトリオ・ロバートの馬場裕之さんをアンバサダーに起用するなどして食品ロス削減の認知度向上を目指している。道のりは険しくとも、ポスターのような生活に密着した取り組みや、著名人の全国的な知名度を生かした広報などで一歩ずつ進んでいくしかなさそうだ。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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