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都道府県の魅力度って何? 法的措置、言論の自由の否定…ランキングめぐる舌戦の行方は

SankeiBiz編集部

 大学の偏差値や年収、住みたい街に至るまで、世の中には実に多種多様なランキングが存在する。学校や仕事の成績であれば、順位付けも時には向上への大きなモチベーションになるのかもしれないが、「都道府県魅力度ランキング」はそうではなかったようだ。下位に位置付けられた群馬県の知事が「県民に対し失礼だし侮辱している」と不満をあらわにし、法的措置を含めた検討に言及したのだから穏やかではない。ランキング調査会社の社長は「言論の自由の完全な否定だ」と反発するが、そもそも「魅力度」とは何なのか。

 点数アップも順位転落の群馬県

 2005年11月設立で資本金は2500万円。「都道府県魅力度ランキング」を公表しているのは、東京・虎ノ門に本社を構える「ブランド総合研究所」だ。10人ほどの社員で、地域ブランドや企業ブランドの戦略立案、調査などに取り組んでいる。

 「何を言っているのかと思った。目立ちたいためにやっているのではないか」

 ブランド総合研究所の田中章雄社長はこう訴える。魅力度ランキングで下位だった群馬県の山本一太知事が今月12日の臨時会見で「法的措置を含めた検討を始めた」と発言したのは寝耳に水だったようだ。

 ランキングは毎年、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられるため、影響力は大きい。会社の規模こそ小さいが、約450万人の調査モニターを確保し、100人以上の関係者が調査に携わっているという。田中社長は東工大を卒業後、日経BP社に入社。雑誌記者や日経BPコンサルティング調査部長を経て、地域ブランドアドバイザーなどとして活躍する専門家でもあり、「事実を発表している。『発表するな』という外部圧力をかけるなら言論の自由を束縛することになる」と語気を強める。

 日本一の自然湧出量を誇る草津温泉や世界文化遺産の富岡製糸場など観光資源には恵まれている印象があるが、群馬県の「魅力度」は最下位となった2012年以降も低迷。今年は前年の40位から44位に下がってしまった。「なぜ(前年から)結果が下がったのか理由が判然とせず、根拠不明確なランキングによって県に魅力がないとの誤った認識が広まる」(山本知事)との懸念も無理からぬこと。田中社長は「魅力度の点数は13.4から今年は15.3に上昇している。他の県がより上昇したことで相対的に順位が下がっただけだ」と反論するが、単純に、順位が下がれば魅力度も下がったように映る。

 これに対し、最も魅力度が高かったのは北海道だ。2009年から13年連続で1位を堅守。2位以下は京都府、沖縄県、東京都と続いた。いずれも前年と同じ順位。上位が常連なら下位もまた、同じような顔ぶれである。群馬県のお隣、栃木県は41位。日光東照宮を含む世界遺産「日光の社寺」をはじめ、鬼怒川温泉や那須高原、蔵の街・栃木市など有名な観光地を多く抱え、宇都宮餃子や佐野ラーメンなど味覚も豊富にもかかわらず、昨年は最下位に甘んじた。

 今年は群馬県の知事がクローズアップされたが、栃木県のトップもなかなかの“行動派”だ。福田富一知事は最下位となった昨年10月、東京のブランド総合研究所本社に自ら乗り込んで“抗議” し、調査方法の見直しを求めている。

 茨城県「うちの魅力を発信するだけだ」

 実は都道府県魅力度ランキングは、ブランド総合研究所が全89項目について行っている調査のほんの一部でしかない。1位から47位までの各都道府県の順位がすべて公表されているのは「魅力度」の項目のみ。1047自治体を対象とし、全調査結果を一覧表形式でまとめ、総合的な分析を加えた結果は「総合報告書」(8万1400円=税込み)だけで知ることができる。観光意欲度や居住意欲度などではなく、「魅力度」のランキングだけがメディアに取り上げられる形となり、自治体からは「お金を払わないと他の調査項目が見られないというのは国民の誤解を招く。客観性と公平性はどうなのか」(栃木県)といった不満の声も。「魅力度」の順位が、あたかも都道府県の総合力を示す指標として「独り歩き」していると警戒する自治体関係者は少なくない。

 「茨城県の県民所得は全国で6位。人が魅力と思うのはさまざまなのに、それを評価して順位付けをするというのはどうなのか」。7年連続で最下位という不名誉な記録を持つ茨城県は、前年42位に浮上したものの今年は再び最下位に転落。県営業戦略部の担当者は魅力度ランキングのあり方を疑問視する。

 研究学園都市のつくばや外国人観光客にも人気の国営ひたち海浜公園などを擁し、水戸納豆やアンコウなど食材も豊かなだけに、「民間企業がやっている調査で、これだけが魅力を測る指標ではない。うち(茨城県)が持っている魅力を発信していくだけだ」と担当者。ある意味、泰然としている。

 「ランキングは魅力度を反映しておらず、信頼度が低い。知事としてスルー(無視)できない」とヒートアップした群馬県の山本知事とは対照的だ。もっとも、山本知事は「発表することを押さえつけるというものでもない」とも述べ、話題になった発言は「ランキングがずさんだと分かってもらうための方策として有効ならば、それ(法的措置)を検討する」というのが真意だったとしている。県戦略企画課の担当者も「必ずしも法的な手段を取るわけではない。現状は選択肢の一つとして検討している」と解説する。

 魅力度ランキングが含まれる「地域ブランド調査」は2006年から始まり、今年で16回目。当初は市区町村別の魅力度ランキングだったが、2009年から都道府県も加わった。

 同社によると調査は今年7月、全国の20~70代の男女を対象にネットで実施。3万5489人の有効回答が集まった。1人の回答者にすべての都道府県の魅力度を尋ねるわけではないため、ひとつの都道府県ごとの回答者数は平均で約1020人となる。栃木県の福田知事が昨年、「数を増やすべきだ」と要望したことも踏まえ、回答者数は「前年の約620人から引き上げて精度を上げた」と田中社長は胸を張る。

 一喜一憂する必要なし

 魅力-。つまり、人の心を惹(ひ)きつける力というのは、どのように順位付けしているのか。ブランド総合研究所によると魅力度の調査では、提示した地域名に「どの程度魅力的に思うか」を質問し、「とても魅力的」から「まったく魅力的でない」までの5段階評価で回答。そのうち「とても魅力的」「やや魅力的」などと回答した人の割合のみを反映し、それぞれ選択肢に付与した点数を加重平均しているという。

 ランキング調査に自治体から異論が噴出していることに、田中社長は「事実を発表している。調査の精度はより高くなっている。魅力度が低い原因をぜひ(自分たちで)分析してもらいたい」と苦言を呈する。ランキングの結果が、地元の魅力を有効に活用できていないことの証左なのであれば、その事実に目を向けず「指標がおかしい」と異を唱えるのは、確かに「お門違い」かもしれない。

 回答結果は年代別、地域別にほぼ同数ずつ回収し、日本の縮図になるように年齢や地域人口の分布にあわせて再集計。地域のブランド力を消費者が各地域に抱く「魅力」で数値化し、その魅力がどのような側面から評価されているのか、観光意欲や居住意欲、産品購入意欲など他の項目結果から分析できるように設計しているとされるが、「どの程度魅力的に思うか」という設問は、やはり「あいまい」な印象を受ける。

 人の魅力を数値化し、順位付けするのは難しいように、地域の魅力もまた然(しか)りということか。群馬、栃木、茨城の北関東3県は魅力度が低い結果になってしまったが、いずれも魅力的な県であることは確かだろう。どんなものにも順位付けはあり、その結果は気になるものであるが、都道府県の魅力度に限らず、こうしたランキングにそこまで一喜一憂する必要はないのかもしれない。

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