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「手元に入るのは売価の1%…」コーヒー豆生産者の貧困解消へ グアテマラ人が日本から挑む変革

SankeiBiz編集部

 コーヒー豆生産者の収入はコーヒーの最終価格の約1%─。映画「おいしいコーヒーの真実」でも注目を集めた発展途上国でのコーヒー農業の実態だ。利益の配分が極端に不均等な取引を是正する「フェアトレード」の取り組みが広まる中で、ビジネスの仕組みを根底から変えようと日本でコーヒーブランドを立ち上げたグアテマラ人がいる。故郷での農園経営から日本での販売まで一手に手がける「GOOD COFFEE FARMS」(東京都中央区)の代表、カルロス・メレンさん(40)だ。「小規模農園でも持続可能な生産ができるように」と考案した、水も燃料も使わない環境負荷ゼロの自転車型脱穀機で、グアテマラだけでなく世界のコーヒービジネスを変えようとしている。

 正当な対価を得られる仕組みを

 「自転車で作ったコーヒーです。漕いでみませんか?」。10月1日の国際コーヒーの日、都内で開催されていたコーヒーの試飲会で流暢な日本語で声をかけてきたメレンさん。促された先に目を向けると、そこには自転車の前に大きな箱がついたような見慣れない装置があった。サドルに腰かけ、ペダルを回すと、箱の上の受け皿から回転音が響いてきた。自転車の形をしたコーヒー豆の脱穀機だ。

 メレンさんによると、従来のコーヒー豆の脱穀作業は大量生産を前提としたもので、実(コーヒーチェリー)の果皮が割れないように摩擦を防ぐ大量の水と、設備を稼働させるための電気が必要。設備は高価で、グアテマラで全体の9割以上を占める小規模農家には導入できるものではなく、そもそも大量生産しない農家には必要のないものだった。しかしコーヒーチェリーの栽培しか行うことができない農家は貧しい暮らしを強いられているという。

 「生産者が自分たちでコーヒーチェリーの栽培から豆の脱穀まで行えるようになれば、正当な対価を得ることができるのではないか」。そう考えたメレンさんが開発したのが、水も電気も使わない自転車型の脱穀機だった。

 動力は人力。価格も日本円にして30万円ほどで、小規模な生産者でも手が届かない額ではない。また、通常の脱穀機が処理水と取り除いた果皮をそのまま川に流すのに比べて、水を使わずCO2の排出もない自転車型脱穀機は環境への負荷もない。それどころか果皮を廃棄せずに乾燥させて「コーヒーティー」として再利用するなど、一切の無駄を出さないサイクルも構築している。

 コーヒーで世界を変えたい

 故郷のコーヒー農業をめぐる実態を知ったのは、日本からグアテマラを見たことがきっかけだった。初の来日は18歳。旅行で訪れたことを機に日本の文化に惚れ込み、以来日本で暮らしているメレンさん。日本人にとって「グアテマラ=コーヒーの産地」というイメージが強いことを知り、日本で自身のコーヒーブランドを作りたいと故郷のコーヒー農園を視察した。そこで目の当たりにしたのがコーヒー業界の不公平な現実だ。「有名なコーヒー農園でも、フェアトレードの認証を受けているブランドでも、栽培農家の生産者たちは想像をはるかに超えた貧しい暮らしをしていた」とメレンさんは振り返る。

 「小規模なコーヒー生産者が自分たちの手で栽培からコーヒー豆づくりまで行い、その豆をコーヒー消費の大きな市場である日本に直接輸出できるルートができれば貧困から抜け出せるのではないか」との思いからメレンさんが2017年に立ち上げた生産者団体が、企業名でもある「GOOD COFFEE FARMS」。自転車型脱穀機の導入をはじめ、上質な豆づくりのためのノウハウをレクチャーするなど、現地のコーヒービジネスの変革に取り組んでいる。「自分もチャレンジしたい」とメレンさんの下に集まったコーヒー生産者は200人。農園で働くスタッフの収入は加入前後で3~4倍に改善されているという。

 さらに現地では制服の着用や朝礼など日本特有の就労文化も導入している。何より大切にしているのは日本流の規律だ。「規律があれば明るい将来に向けてチーム一丸となって取り組む姿勢が生まれる。時間もルールも守られるし、それぞれの責任感も生まれる」。農園内では日本語の「頑張りましょう!」が掛け声として飛び交う。

 エルサルバドルやコスタリカ等の中米諸国にも事業を展開中で、今後はアフリカやアジア地域への拡大も視野に入れている。「このムーブメントを世界中に広げ、できる限り多くの生産者をサポートしていきたい」と意欲を語るメレンさん。「サステナブルな方法で作られた“GOODなコーヒー”が今ほど美味しく感じられる時代はない。『COFFEE CHANGING THE WORLD』(コーヒーで世界を変えよう)というスローガンを広めていきたい」と情熱を燃やす。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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