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“聖地”のハンバーガー自販機が10月復活へ「できる限り修復」オーナーの願い

SankeiBiz編集部

 若い男がハンバーガーの自動販売機のボタンをこぶしで何度も殴って破壊するという衝撃的な光景。犯行の一部始終をとらえた防犯カメラ映像はテレビの情報番組でも流れ、SNSでも大きな話題になった。被害に遭ったのは、35~40年前の自販機が90台以上も並ぶ「レトロ自販機の聖地」だった。「今さら犯人が捕まっても…」。自販機を所有する男性が心に負った傷は深いが、壊れた自販機は10月の復活を目指し、急ピッチで修復が進められている。

 いちばん思い入れの強い自販機

 「子供の頃、近所にハンバーガーの自販機がありました。壊されたのはそれと同じ機械で、僕にとって最も思い入れの強いものでしたが、ボタンはもう修復不可能です」

 タイヤ販売店「中古タイヤ市場相模原店」(相模原市南区)の社長、斉藤辰洋さん(49)が声を振り絞る。約35年前に製造された骨董品のような自販機で、注文ボタンが押されると電子レンジで調理され、ほかほかのハンバーガーが出てくる。価格はいずれも280円。ハンバーガーは食品会社の知り合いに斉藤さんが頼んで作ってもらった特注品だ。「昔風のチープな感じが味わえる」(斉藤さん)と人気だったという。

 事件は今月5日午後11時ごろに起きた。防犯カメラには、カップルで訪れた若い男が、小銭を自販機に何度か投入しても返却されてしまうことにいら立ち、こぶしで強くボタンを殴っている様子が映っていた。一緒にいた女性は、その様子をスマートフォンで嬉々として撮影しているようにも見える。「古い機械なので故障ありき。故障していたのはこっちにも責任がありますが、ただそれでも、壊してほしくはなかったです」

 逃げた男の足取りは不明だが、斉藤さんは「もし、ちょっとでも悪かったと思うのであれば名乗り出てきたでしょう。犯人が捕まったところで、お気に入りの機械が直るわけではありません」と嘆く。

 途方に暮れていたところ、事件を知った人から「同型のボタンを作ることができる」といった申し出もあった。「黄ばんだ感じのレトロ感」(斉藤さん)までは完全に再現できないものの、「あと2週間くらいで修復できる見込み」(同)という。10月中には再び、素朴で懐かしいハンバーガーを味わうことができそうだ。

 若者にとっては新しい「レトロ自販機」

 今ではレトロ自販機で有名な中古タイヤ市場だが、そもそも自販機を置いたきっかけは、“本業”と大きく関係があった。「タイヤ交換でお客さんを待たせてしまうので、待ってもらっている間に何か楽しめるもの、食べられるものがあるといいなということで、最初はお菓子の自販機を設置しました」と振り返る。約10年前から趣味でレトロ自販機を集めだし、丹念に修復。5年ほど前からタイヤ販売店の敷地内に自販機を設置するようになったのだという。

 斉藤さんは「食べ物が調理されて出てくる自販機は、若い人には新しく見えるのでしょう」と話す。かつては国道沿いのドライブインに、うどんやそば、ホットスナック、アイスクリームの自販機が並び、長距離トラックのドライバーや深夜のドライブを楽しむ若者らが利用していた。今ではすっかり死語になりつつあるが、「オートレストラン」という呼称もあった。

 昭和のレトロの雰囲気を色濃く残す自販機が勢ぞろいしたスポットは全国的にも貴重な存在で、北海道からわざわざ訪れる人も。斉藤さんは、思い入れの強い自販機を壊されたショックが大きく、その心の傷が癒えることはないが、「皆さんに楽しんでもらっているので、できる限り修復して、ちょっとでも長く使えるにしたいと思っています」と話している。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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