続く電力危機、「九電再エネ出力制御」再び焦点 疑問の声も
【電力危機は続く】九州電力による再生可能エネルギーへの出力制御が再びクローズアップされている。内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)がやり玉にあげ、河野太郎行政改革担当相に改善を指示されたことで、関係省庁が対応に追われているからだ。ただ、再エネTFの議論には大本となる菅義偉政権のエネルギー政策とともに、中長期的な電力の安定供給へのリスクになると疑問の声も上がっている。
「現状を一刻も早く、明日にも直さないといけない。世の中を転換しないといけない」
8月17日、九電による再エネの出力制御について議論した再エネTFで、河野氏はこう語気を強めた。
背景には、新型コロナウイルス禍での電力需要減などのため、九電管内で供給過剰を解消するための出力制御が頻発していることがある。令和3年度の制御の指示回数は2日までで67回を数え、前年度の同時期(51回)を大きく上回るペースだ。
再エネの固定価格買い取り制度が導入された平成24年以降、日照条件などが良い九州では、大規模太陽光発電所(メガソーラー)をはじめ再エネの導入が急伸。今年6月時点で、太陽光だけで送電網に接続済みの合計出力は1044万キロワットと、九電が保有する火力発電所(合計出力約960万キロワット)を上回る。
九電は、太陽光など天候に左右される電源の増加に対応し、さまざまな手段で需給バランスの維持に取り組んできた。ただ、それも限界に達し平成30年10月に再エネの発送電を抑制する出力制御を始めた。
再エネTFでは、NPO法人・環境エネルギー政策研究所の所長で、全国ご当地エネルギー協会事務総長の飯田哲也氏が出力制御を無制限、無補償で実施できる現行ルールの改革を訴えた。河野氏は「誤ったルールで、この何年か突っ走ってしまったことを反省してもらわないといけない」と応じた。
再エネTFでは、「優先給電ルール」と呼ばれる現状の発電抑制順位の見直しも話題に上った。
飯田氏は、脱炭素社会実現に向け再エネを最優先に稼働させる運用方針を定めるべきだと主張し、「日中の火力ゼロへ」と唱えた。
ただ、九電のLNG(液化天然ガス)発電所の中でも、最も素早く稼働できる新大分発電所(大分市)でさえ、停止状態から送電が可能になるまでに1~2時間を要し、最大出力に到達するまでにはさらに30分程度がかかる。気象変化や発電所のトラブルに対応した数分単位の対応は望めない。
火力などの電源を一時的にであっても退場させることは別のリスクも招く。それは需給バランスの維持にとって“緩衝材”の役割を果たしている「慣性力」と「同期化力」という2つの力の不足だ。
送電網には交流の電気が流れ、50ヘルツや60ヘルツといった一定の周波数を維持するため、間断ない需給バランスの調整が続く。
火力や原子力などの電源は、蒸気の力でタービンを高速で回転させて発電するため、タービンそのものも高い運動エネルギーを持っている。回転がもつ力によって、瞬間、瞬間に発生する送電網での電力の過不足を吸収し、一定程度の周波数変動であれば自律的に抑えこむ抵抗力を持つ。このような力を慣性力や同期化力と呼ぶのだ。
ところが直流の電力をインバーターで交流に変換、送電する仕組みから「インバーター電源」とも呼ばれる太陽光などの再エネは、慣性力や同期化力を持たない。周波数変動に抵抗するどころか、むしろ追従し加速させる特性がある。
大手電力の送配電会社の業界団体、送配電網協議会は6月、送電網内でのインバーター電源の比率が50%を超えた場合、周波数変動幅が限度を超え、電源が連鎖的に脱落する「ブラックアウト」に陥る可能性があるとしたシミュレーション結果を公表した。慣性力や同期化力の不足はリスク要因だとの指摘だ。
産経新聞の取材に対し、飯田氏は「典型的な旧(ふる)い議論だ。蓄電池でカバーできている海外の事例がある」と述べ、この見方に否定的だ。ただ、日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は「将来どの程度の慣性力や同期化力が必要かは議論されている。対応する技術開発も進むが、2030年ごろに(不足が)顕在化することはあり得る」と警鐘を鳴らす。
ある業界関係者は「再エネTFの議論は再エネに偏重するあまり、安定供給の確保を二の次にしているような印象が強い。河野氏に影響力があるだけに政府も引きずられている。ツケは現場と社会生活に回る」と話す。
再エネTFの議論をめぐっては、経済産業省の有識者会議、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会のメンバーからも批判が出ている。8月4日、同分科会委員で、地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾主席研究員は再エネTFを評し「最低限の知識さえも理解も有さないような委員で構成されたような組織」と断じた上で「行政改革すべき正に対象ではないかと思う」と批判した。
これに対し再エネTF側は「一方的にレッテルを貼り、侮辱的な内容を含んだ不適切発言だ」と反発している。
一連のやり取りは日本のエネルギー政策をめぐる対立が先鋭化している象徴といえる。
菅政権では河野氏や小泉進次郎環境相がエネルギー政策への関与に積極的で、再エネ導入増を主張している。一方、「(脱炭素電源という)原子力の重要性をしっかりと位置付けてもらいたい」(電気事業連合会の池辺和弘会長)とする電力業界の声は顧みられない傾向が強い。閣議決定を控える次期エネルギー基本計画(エネ基)でも、再エネ導入に強い決意が示されるが、原子力に関しては増設や建て替えに踏み込むことはなかった。
菅首相を含め、神奈川県内を選挙区とする3氏は議員宿舎で定期的に会合を持つなど関係は強いといわれる。小泉氏は8月20日、「首相のぶれないリーダーシップがなければ再エネ最優先の原則で、日本は歩んでいくという礎はできなかった」と述べ、自民党総裁選での菅首相再選を支持する考えを示した。河野氏は同29日の記者会見で再選支持を示唆した。
業界関係者は「現政権のエネルギー政策の方向性は河野、小泉両大臣が主導権を握る。このままでは2氏への傾斜がさらに強まりかねない」と警戒している。(中村雅和)
【再生可能エネルギーの出力制御】大手電力会社から再エネ発電所の出力を停止、抑制するよう要請し、電力の需給バランスをコントロールすること。電気は大量にためられないため必要とされる瞬間に必要とされる量を発電する「同時同量」を原則とするが、バランスが崩れると周波数が保てなくなり、電気を使用する設備に悪影響があるほか、最悪の場合は大規模停電につながる恐れがある。このため電気が余る場合、再エネの出力を調整してバランスを維持している。