新型コロナウイルス感染拡大に伴い“キャッシュレス化”の流れに拍車がかかり、飲食・小売業界では「PayPay」をはじめとした電子マネー決済が普及し始めているが、国内ではいまだ現金しか使えない飲食店や小売店も少なくない。そんな日本のキャッシュレス決済の利用状況は、隣国である中国・韓国と比較して進んでいるのか、遅れているのか-。
1カ月あたりの現金の平均利用額は?
「すみません、カード払いは対応しておりません」。昨今、コンビニやスーパーなどの小売店にはカードや電子マネーに対応したセルフレジが並ぶようになったが、個人経営の飲食店でカードや電子マネー決済に対応しているか確認すると、店員からこう返されることも珍しくない。
そんな日本のキャッシュレス決済はどこまで普及しているのか。国際カードブランド「ユニオンペイ」を運営する銀聯(ぎんれん)国際の日本支社は、日本・中国・韓国の20~60代の男女計300人を対象に、現金とキャッシュレス決済の利用実態を調査した。
その結果、最も現金を頻繁に利用していたのは、やはり日本。1カ月あたりの実店舗での現金の平均利用額は2万663円。2位の韓国(9640円)の約2倍、中国(2848円)の約7倍以上となった。経済産業省の調査では、今年1~3月時点での中小事業者のキャッシュレス決済導入率は7割に達しているものの、依然として、現金払い信仰が根強い実態が浮き彫りとなった。
経産省の調査では、飲食店が85.4%、小売店が88.3%なのに対し、サービス業は63.8%、公共機関は66.2%と、業種間でキャッシュレス決済の導入に格差が生じていることも判明した。キャッシュレス決済未導入の理由について、最も多かったのは「客からの要望がない」。「手数料が高い」「導入のメリットが不明」などの声も寄せられた。いまだ現金の利用者が多い状況と、導入コストや手数料などが複合的に作用し、日本のキャッシュレス化に歯止めをかけている現状がうかがえる。
スマホ普及も…決済利用は約5割
銀聯の調査では、キャッシュレス決済を「クレジットカード」と「デビットカード」、交通系ICやプリペイドカードなどの「電子マネー」、スマートフォンのQRコードなどを読み込んで支払う「スマホ決済」の4つに分類し、各決済手段を保有しているかを聞いた。
日本と韓国で最も保有率が高かったのは「クレジットカード」で、日本では90.0%、韓国で83.0%の人が所持していた。一方、中国でのクレジットカード保有率は60.0%にとどまり、最多は「スマホ決済」の86.0%だった。
日本でもお年寄り向けのスマホなどが普及し、今や10人に9人がスマホを所持している状況だが、スマホ決済の利用者は54.0%にとどまっていることも分かった。
スマホ決済を使う金額帯について、1000円未満での使用が最も多かったのは日本の59.2%。韓国(50.0%)、中国(33.7%)の順だった。一方、1万円以上の高額決済で使用する人は中国に多く、約3人に1人にあたる34.9%が利用。韓国は12.9%で、日本ではわずか1.9%だった。日本でのスマホ決済は少額決済、中国では金額に関係なくスマホ決済が使用される傾向がみられる。
スマホ決済の手数料をめぐっては、ソフトバンクグループ傘下でスマートフォン決済サービスを手掛ける「PayPay」(東京)は19日、中小加盟店に10月から支払ってもらう手数料の料率を最低で1.6%にすると発表した。
普及を優先して手数料を無料としていた拡大戦略からの転換となるが、手数料は業界最低水準に抑えるという。ライバル企業で「メルペイ」を展開するメルカリの小泉文明会長も「使いやすさで多くのお客に使ってもらえるようにしたい」と述べるなど、今後事業者間での競争が激化する可能性もある。
政府はキャッシュレス決済比率8割の目標を掲げるが、その目標達成には電子決済サービスを展開する各社が、加盟店や利用者に向けてサービスの利便性を高めるとともに、消費者もスマホの決済方法について認知することが求められそうだ。