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蓼科、軽井沢…人気のワーケーションスポットの共通点は「ちょうど良い自然」

SankeiBiz編集部

 観光地やリゾート地でテレワークを活用し、働きながら休暇をとる「ワーケーション」が“ニューノーマルな働き方”として注目されている。独自のワーケーションプランを打ち出す宿泊施設や地方自治体も増えており、中にはコロナ禍前に比して集客に成功しているケースも。そこにはどんな魅力があるのか。人気を集めるワーケーションスポットをひも解くと、自然と仕事のちょうどよい融合空間が見えてきた。

 遊びにも仕事にもなじむ自然

 「ワークスペースの利用者数は昨年の夏・秋から一気に増え、130%ほど伸びています」

 こう語るのは、都心から車で2時間半ほどで行ける人気のリゾート地、長野県茅野市の蓼科高原にあるキャンプ場「TINY GARDEN(タイニーガーデン)蓼科」の店長、粟野龍亮さん。ワークスペースをもつキャンプ場という形態が昨今のアウトドアブームとワーケーションニーズに合致し、利用者は堅調に推移しているという。

 キャンプ場を手掛けるのはセレクトショップを運営するアパレル企業の「アーバンリサーチ」(大阪市)。既存のキャンプ場を大幅にリノベーションし、現代のライフスタイルに合う施設として蘇らせた。「利用者のレベルに合わせた自然空間の提供」というコンセプトのもとに再構成された施設は、キャンプサイトだけでなく、ホテルタイプの客室やコテージタイプのキャビン、さらにカフェや温泉施設まで備える。キャンプビギナーはもちろん、キャンプをしない人も無理なく自然に溶け込める環境になっている。

 2019年のオープン当時から設けていた会議利用を想定したスペースを2020年5月にビジネスマン利用のためのワークスペースとして仕様変更したところ、ワーケーション利用で予想以上のニーズを獲得した。

 管理棟から離れた別棟として存在するワークスペースは、レジャーの空間とは違った清閑な環境が確保されている。

 もちろん、ネット環境は完備。窓越しに鏡のような水面を湛(たた)えた蓼科湖畔や、手入れが行き届いた芝生が広がるキャンプ場を眺めながら仕事に集中することができる。粟野さんは「自宅でのテレワークにストレスを感じ、高原の空気、開放的な空間を求めてリフレッシュしに来る方が多いようです」と話す。

 利用者はカップルのほか、子供が小学生未満のファミリー層が多いという。家族連れでは、2世帯で訪れ祖父母が子供の面倒を見ている間に親がワークスペースやカフェで仕事をするといった利用スタイルも増えている。

 3泊すると1泊分が無料になるワーケーションプランも人気で、平均滞在日数も3泊4日に長期化する傾向にある。スタッフがコンシェルジュとなって登山やカヌーなどのアクティビティや観光情報を提案。仕事の傍らで長期滞在を楽しめる工夫が凝らされている。

 企業などの団体利用も増えているという。7月は団体の貸し切り利用も週1組ペース(5~20人)で予約が入り、利用者数ベースでの稼働率は昨年比200%以上で推移している。

 粟野さんが利用者から聞いた話によると、リモートワークが浸透する一方で、チーム単位でオフサイトミーティングをして親睦を深めたり、方向性を確認したりする機会の必要性を感じている人が多いという。

 ロッジやキャビンに滞在し、日中はワーキングスペースでミーティング、夜はBBQ(バーベキュー)、翌日は会議またはアクティビティといったスタイル。リモートワークで職場や同僚から“離れた”ことで、距離感を縮めようとする逆転現象の受け皿にもなっているようだ。こうしたニーズを受け、今後はさらに団体向けのプランや1~2週間の長期滞在プランの導入も検討するとしている。

 

 「仕事場を楽しむ」という感覚

 高原のリゾート地でありながら都心からのアクセスが良く「東京24区」とも称される長野県の軽井沢町。自然と利便性がほどよくマッチした軽井沢はコロナ禍での移住先としてだけでなく、ワーケーションスポットとしても人気が高い。町内にテレワークスペースを多数設けるなど地域を挙げて“ニューノーマルな働き方”を提案している。

 軽井沢を代表するリゾート地「軽井沢星野エリア」では、コロナ禍前からワーケーションで利用をする人がいたが、中でもカジュアルな滞在をコンセプトとする「星野リゾート BEB5(ベブファイブ)軽井沢」では、コロナ禍以降ワーケーション利用者と思われる客層が増えているという。

 スタッフの佐藤未萌(みもえ)さん(27)によると、BEB5軽井沢でのワーケーション利用者の多くは比較的若い男性の単身利用で、平日利用で2泊以上の連泊をするケースが少なくない。

 エリア内にある温泉やサウナに朝イチで出かけて“整え”、朝食を摂った後に24時間使用可能な施設内のフリースペースで仕事を始めるというのが「過ごし方の好例」(佐藤さん)だそうだ。

 同僚や会社・チームでのグループ利用も増えており、その場合、日中はそれぞれ好きな場所で仕事をし、食事は一緒に出かけるといったパターンが多いという。3人1部屋で1万5000円(税抜き)で利用できる若者向けの「29歳以下エコひいきプラン」もグループ利用を後押ししている。SNS上でも「3人で行って1人5000円は安価。1週間くらい滞在したかった。ここは絶対また来る」といった声が寄せられるなど、特にワーケーション志向が強いとされる若い世代のニーズに刺さっている。

 Wi-Fi(ワイファイ)完備で開放感ある快適な空間で仕事に集中し、ふと外に目を向けると、そこにはまばゆい緑。秋にはきっと紅葉に色づくのだろう。

 「旅先で仕事をする気になんてならないでのは…」と思っていたが、やってみるとむしろ集中力が高まり、作業が捗るから驚きだ。仕事後は温泉や食事を楽しみ、リラックスして1日を終える。滞在期間に休日を混ぜて、オフの日はマイナスイオンたっぷりの森を散策してゆっくり過ごす。観光の合間に仕事をするのではなく、もはや「仕事場を楽しむ」といった感覚だ。日常の仕事場と化した自宅から離れ、自然の中に身を置くだけで日々のストレスが浄化されていくのを実感した。

 ワーケーションのその先へ

 「こんな場所でずっとリモートワークがしたい!」という思いに応えるように、軽井沢星野エリアでは軽井沢移住の可能性を体感するユニークなワーケーションプランを実施している。BEB5軽井沢での2泊3日の滞在中に、不動産仲介を手掛ける「星野リゾート 軽井沢 別荘Navi」の移住アドバイザーの案内のもと、“軽井沢暮らし”を体感するツアーに参加するプランだ。

 「軽井沢でワーケーションプランを作るなら、他にはないものを作りたかった」というのは、アドバイザーで自身も他県からの移住者である貫名礼恵(ぬきな・ゆきえ)さん(40)。「ネット情報より直接体感してもらった方が軽井沢の魅力が伝わる」と自らの実体験も交えながら、観光だけでは見えない軽井沢を紹介する。

 プラン利用者の中には移住を前提に下見を兼ねて訪れた主婦もいたが、軽井沢での暮らしに漠然と興味をもち、単身で訪れる女性の姿が目立つという。

 「男性は現実的な思考をする一方で、女性は夢があるように思います。移住に興味はあるけれど一人では(下見に)行きづらい。そんなニーズにこのプランがマッチしているようです」

 貫名さん自身もそうだったというように、軽井沢への移住希望者の中には「定住ではなく、いまここに住みたい」というニーズで移住を検討する人も少なくない。将来的にはリセールも可能な資産価値があるのが軽井沢の物件の強みだ。貫名さんは「移住するという強い気持ちがなくても、ワーケーション体験を通じて働き方を考える機会になれば」と話している。

 豊かな自然に囲まれながら、快適で不自由のない仕事環境が確保できる。そんな絶妙な融合バランスをもった場所が、テレワークなどでストレスを抱えるビジネスマンに「もう一つの仕事場」として選ばれているようだ。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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