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前代未聞…文明堂東京「スポーツカステラ」は水なしOK? パサパサ感は大丈夫か

SankeiBiz編集部

 カステラで有名な文明堂東京が、運動中などに食べる「V!カステラ」を開発し、同社の公式サイトで販売を始めた。氷菓「あずきバー」で知られる井村屋が「スポーツようかん」を開発した例はあるものの、「スポーツカステラ」は前代未聞。「口の中がパサパサになるのでは」と心配する向きもあり、ネットユーザーの関心を集めている。

2分の1に圧縮「ぎゅっとしっとり」

 「カステラの形を変えることに、職人からはものすごい反対を受けました」

 文明堂東京の広報担当者はV!カステラの開発を振り返り、苦笑した。1900年に長崎市で創業した老舗だけに、新分野への進出には抵抗もあったという。

 開発が始まったのは2018年。登山やサイクリングを楽しむ人の間で、お菓子などで栄養を補う「補食」として文明堂のカステラが好まれていたことから「スポーツ向けに文明堂が提供できるカステラを作る」プロジェクトが発足した。

 原材料は小麦、卵、砂糖、水あめ、ハチミツで、文明堂東京が製造する他のカステラと同じだ。卵で必須アミノ酸を摂取できるカステラの強みを生かしている。エナジーバーなどの栄養補助食品ではビタミンやたんぱく質をなどの成分を強化しているが、V!カステラでは添加物を使わずに、炭水化物を効率よく補給し消化を良くすることを目指した。

 昔ながらの原材料で勝負しようと決めた背景には、栄養と消化の都合だけではなく、「文明堂が提供できるカステラという原点に立って考えたときに(添加物は)好ましくない」(広報担当者)という老舗のプライドもあったようだ。

 原材料は同じだが、作り方は異なる。独自の方法で1切れ5.5~6センチメートルの高さのカステラを2.5センチメートルまで圧縮。およそ半分の高さにまで縮めることで、食感が空気を含んだ「ふんわり」から、水分を感じさせる「ぎゅっとしっとり」に変化するという。広報担当者は「通常のカステラは牛乳やコーヒーなどの飲み物と合わせていただきますが、V!カステラはトレーニング中に、水分補給をさほど取らなくても補食できるぐらいしっとりとしています」と胸を張る。

 試食調査では水分を摂取しなくても食べられるという評価もあった。カステラで口の中が乾き、水分を多めに摂ることでスポーツのパフォーマンスに支障をきたしかねないとの懸念は、一定程度解消されているようだ。

変わる市場で見つけた可能性

 運動中のごみを減らすため、カステラには付き物の「底の紙」がないのも特徴だ。また、片手で食べやすいように、従来のエナジーバーと同じくらいのサイズにした。消費者のニーズを細大漏らさずすくい取って新商品に反映させたという。

 だが、職人の反発も強かったのは前述した通り。「開発担当者が職人を説得し、最初の試作をなんとか完成させました。カステラをプレスした形にした際の職人の厳しい反応は、今では良い思い出になっております」(広報担当者)。歴史と伝統のある企業だけに、大胆なイノベーションにはひとかたならぬ苦労もあるようだ。

 V!カステラの開発した理由はまだあるという。それは「ギフト需要の低下や自家需要の増加など市場が大きく変わっている」(同社)からだった。市場を模索する過程の産物だったのだ。

 経済産業省の家計調査によると、近年、カステラの1世帯当たりの年間支出額は平均700~800円程度。ケーキの同5500円やチョコレートの同4000~5000円との差は大きい。都道府県別では、カステラの本場、長崎県が全国平均の約8倍と突出しているものの、全国的にはカステラの支出額はケーキなどに大きく水をあけられている。だがその分、まだ伸びしろがあるともいえる。

 V!カステラは1本あたり150キロカロリーで、たんぱく質3.2グラム、脂質2.5グラム、炭水化物28.4グラム、食塩相当量0.1グラム。価格は10本で税込み2000円だ。広報担当者は「カステラに補食としての可能性を見出したことで、スポーツシーンという市場を見つけることができたと考えています」と新しい需要の開拓に期待を寄せている。

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