高論卓説

リモート会議の間違ったおきて 意見交換や交流阻害で本末転倒

 テレワークが常態化し、Zoom(ズーム)やSkype(スカイプ)などリモートツールを使った会議や研修が頻繁に行われるようになった。出社していても、感染防止のために、会議室に集まることは、ほとんどなくなり、リモート会議にとって代わった。

 このリモート会議には、さまざまなルールがある。しかし、このルール、実はそのまま従っていたのでは、会議や研修の本来の目的を損ない、本末転倒なことになってしまうものが、とても多い。そして、そのことに気付いていないまま盲従していると、取り返しのつかないことになってしまう。

 おきて1 カメラオフ

 リモート会議はカメラオフで参加するというおきてが存在している。インターネット回線を不安定にするという理由で、明記している企業では、主催者が、「カメラオフにしてください」「○○さん、まだカメラオンですよ」と会議開始時に数分かけて、声高に注意が続く。

 明記していなくても、暗黙のうちに、カメラオフで参加するのが当たり前になっている企業も少なくない。理由を聞くと、「顔や私服を見せたくない」「プライベートな背景を見せたくない」「壁紙の設定がめんどう」「家族やペットなどが映るリスクがある」などの答えが返ってくる。

 しかし会議で説明する側になって考えてほしい。顔の見えない相手に話すことほど、話しづらいことはない。話しづらいだけでなく、相手の反応が見えない。完全に納得しているのか、理解が浅いところがあるのか、異論や懸念を持っているのか、ひいては聞いていたのか、聞いていないのか、顔色一つで分かるものが、カメラオフでは分からない。カメラオフのリモート会議では、それがはっきりしないまま、あるいは、誤解したまま放置されてしまう。カメラオフというおきてが、組織の合意形成を損なっている。

 おきて2 マイクオフ

 発言時以外カメラオフのルールがあるケースは実に多い。話し手は、静粛に聞いてほしいと思い、聞き手も予期せぬ騒音による迷惑をかけたくないと考え、マイクオフがマナーになっている。しかし、これが聞き手の発言を減退させている。マイクオフの状態からの発言には、次の5つのステップが必要だ。(1)話そうと思う(2)マイク操作のスイッチをクリックする(3)マイクをオフからオンにする(4)マイクオンがシステムに反応する時間を待つ(5)発言する。

 これに数秒から10秒近くを要する。会議全体でのこのロスの総量は無視できない。そして、このステップが、無意識のうちに、聞き手の発言意欲を損なっている。マイクオフの会議が組織のモチベーションレベルを低下させている。

 おきて3 発言者を指名

 進行役が発言者を指名するものだというルールが浸透してしまっている組織が多い。進行役は、参加者から発言が出ないからやむなく発言者を指名しているのだが、これが繰り返された揚げ句の果てに、ルール化されてしまって、指名されなければ発言しないというおきてになってしまうケースだ。このおきてがメンバーの能動性を損なう。

 私は、カメラとマイクを常時オンにした双方向の会議や演習プログラムをほぼ毎日実施している。リモートツールの安定度は高く、回線が不安定になることはない。相互の巻き込みは加速し、モチベーションレベルも能動性も高まる。参加者からは久しぶりに深い意見交換や交流ができたという反応をいただく。試しに実施してみることを勧める。

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 山口博(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。