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「プロ化」の文字消えたラグビー新リーグ 全く見えぬ改善点

 新型コロナウイルスに多くの選手たちが感染し、予定を1カ月遅らせてスタートしたラグビートップリーグは、今季がラストシーズンとなる。来年1月から始まる新リーグの概要も発表され、本来であればラグビー人気の高まりの機運は期待されて当然であろうが、果たして現実はそうなのであろうか。(フリーランスプランナー・今昌司)

 全く見えぬ改善点

 新リーグの概要には、リーグとしての形ばかりが整えられているだけで、現リーグと一体何が違うのか、現リーグの一体何が改善されるのか、私には全くその意図が見えてこない。一昨年6月、日本ラグビーフットボール協会の副会長に、新リーグ設立の推進役を担う清宮克幸氏が就任した。清宮氏が目指した新リーグとは完全なプロリーグだった。リーグのプロ化に対しては、日本代表のジョセフ・ヘッドコーチも「世界で本当に勝つためにはプロ化が必要」と明言している。

 プロ化とは、選手個々の契約やチームとの雇用形態を示すだけではなく、ラグビーというスポーツを興行コンテンツとして、ラグビー興行を事業として成り立たせ、確固たる市場を形成していくことである。参加チームは、興行コンテンツを形成する価値を生み出していく存在として機能していかなくてはならず、おのずと興行組織として経営されていくことになる。

 さらには、参加チーム全体を束ね、興行価値の本質である試合をマネジメントするためのリーグ組織こそ、プロスポーツ興行の専門能力を持つ人材によって構成され経営されていかなくてはならない。スポーツの試合から生み出される価値を最大化し、その最大化された価値から最適に対価を得て、得られた対価を市場拡大のために再投資される循環を、継続してマネジメントしていくことと考える。

 そして、プロリーグは複数の参加チームがスポーツ興行を事業として営む団体として参加してこそ成り立つ単一事業体であるため、顧客戦略やマーケティング戦略においても、共存共栄の理念が組織経営の基軸となる。目的はリーグ全体の収益事業としての発展である。ラグビー新リーグは、明確にプロ化にこそ新リーグ設立の意義を見いだしていたのである。

 しかし、現リーグに参加するチームは、ほとんどが企業の社内組織として存在するチームであり、企業にもたらされる恩恵をその存在価値として運営されている。他のチームと共有する利益やリーグ全体の利益を第一優先する理由はない。ラグビーチームの運営には年間15億円以上の費用を要するといわれているが、企業の広報や宣伝目的の投資といえども、それを簡単に拠出できる企業はそうそうないのも事実だ。

 企業の論理が阻害

 昨年10月、プロ化の具体化を推進してきた清宮氏は退任し、現在は新リーグ発足を担う新リーグ法人準備室の室長に就任した谷口真由美氏が実質的な新リーグ設立の実務を担っている。今回発表された概要には、プロ化の文字もニュアンスもなく、示されたのはチーム運営主体の法人化を問わない現在と何も変わらないものであった。現リーグと異なるのは、試合興行の運営主体を主催チームが担い、試合開催のための会場施設を1.5万人以上の収容規模を条件として確保することという過去のまね事だけである。

 かつて、ラグビーと同様にバレーボールも、プロ化への変革をうたいながら、その勢いは所属チームの親会社たる企業の論理に押し込められ、数度のプロ化の機運を潰されてきた。

 ラグビーが、スポーツの発展のために再投資していく図式を描いていくとしたら、企業スポーツとしてのリーグの発展がベストなのか、サッカーやバスケットと同様に真のプロ化の選択がベストなのか。答えはおのずと見えているはずなのだが。

【プロフィル】今昌司 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。