高論卓説

 多様なメンバー活躍の環境整備 人材を横串で捉える発想不可欠

 今秋公表された今年の厚生労働白書の柱の一つに、正規、非正規を問わず、多様な雇用形態のメンバーが能力発揮できる環境整備というテーマがある。同一労働同一賃金も、有期労働契約のルール改正も実現していきたい課題だが、そのためには、組織のリーダーが、属性の異なるメンバーと縦割りではなく、横串を刺して捉えることが重要だ。

 私が能力開発演習を実施している自動車メーカーでは、1組20人程度が参加するプログラムに、職位も部長、課長、一般社員の各層から、雇用形態も正社員、他社へ出向社員、他社から出向している社員、契約社員、派遣社員から、国籍もさまざまなメンバーが参加している。

 部長に対してのみ伝えたい、課長に対してのみ理解を深めたいといった研修については、おのおのの階層だけで行う意味があるだろうが、演習主体でその場でスキル発揮力を高めるプログラムでは、横串で捉えて、多様なメンバーが集まれば集まるほど、演習効果が上がる。

 雇用形態が異なる社員を一堂に会して演習しようとすると、必ず出てくるのが、育成責任は出向元にある、派遣会社にあるという懸念だ。しかし、こうした縦割りの発想で捉えていては、いつまでたっても能力開発が図られない。

 こうした職位や雇用形態を超えた多様なメンバーでプログラムを実施できるかどうかは、参加者一人一人が壁を乗り越えられるかにかかっている。部長が一般社員と演習することに抵抗感を払拭できるか、派遣社員が正社員とともに取り組むことに躊躇(ちゅうちょ)しないかということだ。

 これさえ乗り越えて、横串で実施できれば、多大な成果を獲得できる。多様なメンバーで演習することで、スキル発揮レベルの高低を横串で捉えることができる。適材適所が進みやすい。モチベーションファクターのばらつきが把握できる。

 モチベーションファクターとは、6つに区分できる意欲が高まる要素で、(1)チャレンジ(2)オーナーシップ(3)ステータスにより意欲が高まれば牽引(けんいん)志向(4)パートナーシップ(5)リスク回避(6)バランスにより意欲が高まれば調和志向が高い-というように捉える。

 階層や雇用形態、チームの違いにより、モチベーションファクターの分布が把握でき、チームとして意欲が最も高まる適正配置を実現しやすくなる。

 企業や部門によっては、牽引志向が100%の人から調和志向が95.6%の人まで多様なメンバーで配置されている組織もある。

 日本のビジネスパーソンのモチベーションファクターは牽引志向と調和志向に半々に分かれるので、そのように多様なメンバーで構成されているチームは、多様な顧客に対応しやすい半面、チーム内の巻き込みの難易度は上がる。

 さらには、リーダーとメンバーの認識のギャップを明確にすることができる。リーダーとメンバーが相互に相手のモチベーションファクターを見極めることができているか、経過をたどって話すか、結論から先に話すかというような説明手法や返答手法の志向を分かっているか、それらに応じたコミュニケーションができているかどうかということを数値で示すことができ、一目瞭然になる。

 多様なメンバーが能力発揮できる環境整備のための制度やルールの構築はもちろん重要だが、環境が整うかどうかは、縦割りの発想や抵抗感を排除して、多様な職位や雇用形態のメンバーを横串で捉えることができるかどうかにかかっていると思えてならない。

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 山口博(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。