話題・その他

“自虐ネタ”が赤字ローカル線を救う? 逆境をも笑いに変える鉄道グッズ

SankeiBiz編集部

 赤字にあえぐローカル鉄道が苦しい経営状況を逆手に取った商品を開発し、インターネット販売で売り上げを伸ばしている。長崎県で鉄道や路線バスなどを運行する島原鉄道は「赤字ペン」を開発。今月21日に発売されるとSNSで話題になり、初日だけで1000本近くが売れた。経営難を克服しようと“自虐ネタ”満載のユニークな商品を次々と世に送り出してきた千葉県の銚子電鉄は「赤字経営の多い全国のローカル鉄道と手をつなぎ、前を向いていきたい」と意気込む。

「赤字の鉄道会社だから作れた」

 島原鉄道の「赤字ペン」は見た目こそ3色ボールペンだが、全て赤色。0.5、0.7、1.0ミリと芯の太さが異なるだけで、“黒字”は書けない。同社の永井和久社長が「赤字会社にしか作れないものを作ろう」と自ら考案し、トップダウンで開発された。先端にはキハ2500形ディーゼルカーをモチーフにした「しあわせの黄色い列車」のマスコットも付けられ、価格は税込みで「赤字覚悟の550円」。経営状況を示す赤字の折れ線グラフを描いた台紙も付属しており、細部まで“自虐”がきいている。

 同社営業統括部の島田大輝主任は「自虐的とは言われますが、うちとしては前向きに、自信をもってお届けする商品です。クスッと笑ってもらえれば」と話す。コロナ禍の影響は大きく、同社の鉄道事業収入は前年比で最大5割も減少した。こうした状況を打破すべく、赤字ペンを初回4000本作成。「赤字の鉄道会社だからこそ作れた珠玉の1本!!」「ノールックですぐに赤字線が引ける!!」などとPRしたところ、オンラインショップ「しまてつショップ」を中心に注文が相次いだ。

 島田主任は「台紙裏面の注意書きにも注目してください。工夫を凝らしています。売り上げ次第では、『黒字ペン』の発売も考えたいです」と手ごたえを感じている。

「電車屋なのに自転車操業」

 「ぬれ煎餅がなかったら、もうつぶれています。銚子は漁師町なので若者の就職場所も少ない。若い世代が地元から離れ人口は減り、乗車人員もずっと下り坂です」

 こう嘆くのは、銚子電鉄鉄道部の鈴木一成運輸課長補佐。銚子電鉄の稼ぎ頭は「ぬれ煎餅」で、かつてホームページで「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と窮状を訴えたことが話題になった。鉄路存続の危機に直面している赤字のローカル鉄道だ。

 生き残りをかけた「鯖威張る(サバイバル)弁当」や、サングラスなどをセットにした「お先真っ暗セット」といった多くの“自虐ネタ”商品を販売してきた銚子電鉄。中でも、200万本以上が売れるヒット商品となったのが、“まずい”経営状態から脱却しようと2018年から販売しているスナック菓子の「まずい棒」だった。

 「わさび味」のパッケージには、車両が古く錆(さ)びが浮いているということなのか、「わ、、錆…!」の駄洒落とともに自転車にまたがる鉄道員のイラストが描かれている。「電車」を運行する鉄道会社が「自転車操業」に陥っているという皮肉。最初に発売された「コーンポタージュ味」は、「破産はイヤ、イヤ」という語呂合わせで8月3日の18時18分から販売を開始するという力の入れようで、まさに“自虐ネタ”のオンパレードだ。

 こうした商品のアイデアの源泉は竹本勝紀社長だったという。鈴木課長補佐は「もう社長の執念です。日常の会話でも自虐っぽい話題が出て、『それいいね!』という感じで商品が生まれます」と明かす。銚子電鉄は銚子駅と外川(とかわ)駅を結ぶわずか6.4キロの路線。通勤通学客のほか、犬吠埼などへの観光客の輸送に利用されているが、コロナ禍の影響は大きく、運賃収入は前年比約8割減と厳しい状況が続く。

 「運輸サービス業ですのでお客さんが来ないと勝負になりませんが、後ろ向きではなくポジティブに。なんとかして商品をネットで販売していきたいです」と鈴木課長補佐は前を向く。

 逆境をも笑いに変える鉄道会社の“自虐ネタ”商品には、地域の足を何としても存続させたいという、公共交通を担う鉄道員の熱い思いが詰まっている。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。