リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

アキュラホーム・宮沢俊哉社長(1) ESG経営で注文住宅「日本一」に

 木造注文住宅を高品質・適正価格で提供するアキュラホームは、環境問題や災害対策といった社会課題の解決に精力的に取り組んでいる。太陽光発電の推進など環境負荷の低減や耐震・耐久性能を追求し、災害に強い家づくりに奮闘。木を扱う企業の社会的責任から森林保全に着目し、間伐材を使用した学習机の天板の小学校への寄贈や、世界で初めて量産化した「カンナ削りの木のストロー」の普及にも力を入れる。宮沢俊哉社長は「ESG(環境・社会・企業統治)に優れた日本一の注文住宅・まちづくり企業を目指す」と持ち前のチャレンジ精神でポストコロナ時代に挑む。

 無人のモデルハウス

 --新型コロナウイルス禍でモデルハウスへの来場者も減ったのでは

 「住宅購入を検討する人は、展示場でモデルハウスを見学して注文するケースが多い。そのきっかけが住宅展示場の閉鎖で失われた。来場者は、4月が前年同月比85%、5月が92%と激減。閉鎖で来場できないので住宅購入を検討する新規のお客さまの受け入れを原則停止した」

 --手をこまぬいていては注文が取れない。どんな手を打ったのか

 「コロナ禍でもお客さまの家づくりを応援するため、3月に『クリーンモデルハウス宣言』を掲げ、モデルハウス内の換気・消毒を徹底し、打ち合わせ時の社員のマスク着用を義務化した。一方、商談に訪れたお客さまへはマスクや除菌ウエットティッシュを配り、コロナに『うつらない、うつさない』コミュニケーションを取ることを第一に、安全・安心の確保に努めた」

 「接触を避けるため、見守りカメラやロボットを導入した。3月末にはロボットがモデルハウスを訪れたお客さまを案内する無人モデルハウスの第1号をさいたま市にオープンし、ゴールデンウイーク前には全国17カ所で始めた。お客さまが自宅から非接触・非対面で見学できるシステムも稼働させた」

 --コロナ禍で分かったことは

 「多くのことを発見した。ウィズコロナを好機ととらえ事業のやり方を進化させ、集客や商談はオンラインに切り替えるなど非接触によるコミュニケーションを徹底することで出張や現場に行く移動時間やコストを減らした。在宅勤務が増えたことで東京・新宿本社のスペースを4割削減し、全国都市部のオフィスも7割を再編して経営効率の3割向上を目指す。その分を商品価格の抑制に回し、お客さま還元を図る」

 災い転じて福となす

 --業績への影響は

 「業界全体では前年に比べて戸建て住宅の受注は落ち込んでいるが、当社は固定費削減と経営効率向上の相乗効果で3~5月の停止状態による落ち込みをカバーし、6月以降の受注は前年実績を上回った。2021年2月期の営業利益は計画を上回る見込みだ。社員の頑張りに報いたいとの思いから、夏季賞与は昨夏を11%上回る水準で支給した。当社はこれまでも、さまざまな社会問題や課題に真正面から取り組み解決してきた風土がある。まさに逆境からの逆転、『災い転じて福となす』ことができた」

 「今まで規模を追わず、質的向上、基盤づくりに取り組んできた。21年2月期から中期5カ年計画を始動させたが、5年後の25年2月期には売上高を現状比2倍強の1000億円、営業利益は約10倍の120億円を目指す」

 --コロナの逆風を家づくりにも生かした

 「ウィズコロナ時代のニューノーマル(新常態)となる生活様式を盛り込んだ住宅を開発した。ウイルスを家に持ち込みにくくするため、最初に足を踏み入れる玄関をウイルス除菌エリアとし、そこから非接触で脱衣・入浴可能な動線設計を採用。リモートワークのためのスペースも可動間仕切りで確保した」

 災害対応入念 SDGs 推進に一役

 「生活習慣や価値観の変化に住宅も適応させていく必要がある。豊かな暮らしを提案するためで、住宅を購入したいお客さまに徹底的に寄り添って心をつかむ一方で、日本の住宅価格の適正化に挑戦してきた」

 高品質・適正価格に

 --顧客が望む住宅を追求したことが成長につながった

 「マーケティングを通じ、普通のサラリーマンでもローン返済に苦しめられることなく、家族と長く幸福に暮らしていける住宅を求めていることが分かり『高品質・適正価格』に行き着いた。高度経済成長で台頭した大手住宅メーカーが提示する価格に疑問を持っていたので、材料費や労務費など2万項目以上をデータベース化して現場の作業効率を見直すことで適正価格を実現するアキュラシステムを1994年に開発した。今もなお住宅の過剰な無駄を排除しながら、さらなる高性能・適正価格に取り組んでいる」

 --全国の工務店支援については

 「住宅供給の大半を担う工務店が変われば日本の家づくりはもっと良くなるとの思いから、98年に地域密着型工務店ネットワーク『(現在の)ジャーブネット』を立ち上げた。住宅建設の合理化ノウハウを体系化したアキュラシステムを導入した独立自営の全国工務店を緩やかに連携する。地域に根差した工務店ならではの活動に、全国規模のスケールメリットを加えることで効率化とコストダウンを図るのが狙いだ」

 「またマニュアル化した当社のビジネスモデルを学ぶことで成長を促す。ネットワーク化すると自社の強み、弱みが見えてくる。事業成功の源はリーダーの強い思い。地域性や独自性を持ち、賢く連携することが大切だ」

 --深刻化する異常気象や自然災害への対応は

 「災害時に避難所に行かなくてもすむ安全・安心な住まいの提供がわれわれの義務だ。実物大を使った耐震実験のほか、日本初の耐風公開実験を実施。最強の家の壁を競う『壁-1グランプリ』にも毎年参戦している。今年の大会は総合優勝とトーナメント優勝の2冠を獲得した。生きた商品開発、教育の場と位置付けており、災害に強い家づくりに役立てている」

 --災害時支援は

 「2011年の東日本大震災で被災された地域を支援するため現地に何度も足を運んだが、水と火または電力が必要ということが分かった。水があれば洗濯ができ、風呂に入れる。電気があれば明かりをともせ、暖を取れ、料理も作れる。そこで井戸付きや太陽光発電と蓄電池をセットにした住宅を積極的に提案している。モデルハウスに井戸を設置して水を供給することに加え、日産自動車と災害連携協定を結び、大容量蓄電池の役割を担える電気自動車(EV)を配備して電気を提供できる態勢を整えた。災害備蓄品なども提供し『家守り』だけでなく、『地域守り』も進めていく」

 子供たちへ木育授業

 --国連の持続可能な開発目標「SDGs」への取り組みは

 「木造住宅を提供する企業として木の活用、森林保全を推進している。中でも間伐材の有効活用に取り組んできた。10年から子供たちに木の素晴らしさを伝える『木望(きぼう)の未来プロジェクト』を開始し、20年春までに間伐材で学習机の天板を製作し小学校に累計1万4600枚を寄贈したほか、木の大切さや作る楽しさを伝える『木育授業』を実施している。私自身がカンナ削りを子供たちに見せたり、木のストローのワークショップを開いたりして、間伐による森林保全・減災など自然環境を学ぶ機会としている」

 --木のストローは大いに注目された

 「森林保全だけでなく世界的問題となっているプラスチックごみ問題の解決に寄与すると評価された。カンナ削りの技術を駆使して世界で初めて量産化に成功したが、安全やコスト面で不安があった中、その開発に協力してくれたザ・キャピトルホテル東急が先駆けて導入した。昨年開催されたG20大阪サミットなどでも採用され、地球環境大賞農林水産大臣賞やグッドデザイン賞などを受賞し注目を集めた。木のストローの開発から普及までの物語を描いた書籍『木のストロー』を出版することもできた。今年9月からSDGs推進の一環として『地球の森守りプロジェクト』を始動した。企業活動と環境に対する活動の一体化がこれからの企業のあるべき姿だ」

【プロフィル】宮沢俊哉

 みやざわ・としや 中学卒業後大工修業。19歳で独立し1978年都興(みやこ)建設(現アキュラホーム)創業し社長。98年全国工務店が参加するジャーブネット主宰。2019年、日本一を目指す工務店集団SABM設立。東京都出身。61歳。