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キレる高齢者が激増 寂しさ要因、居場所・仲間づくり支援を

 今回の米大統領選は高齢者同士の闘いだった。年明けにはアメリカ史上最高齢78歳のバイデン大統領が誕生する。日本でも71歳の菅義偉氏が首相に就任、日米ともに70代のリーダーとなる。人口の29%が65歳以上になり日本は高齢者社会に入った。が、65歳は高齢者なのか。

 「65歳以上=高齢者」は日本の医療制度における規定であり、「高齢者=年寄り=弱者」ではない。事実、今の65歳以上の日本人は社会のあらゆる分野で元気に活躍しており、今や65歳以上全員を高齢者つまり老人と呼ぶのは現実的ではない。

 一方、活躍するポジティブ高齢者とは別に、最近ネガティブ高齢者による迷惑行為が頻発し問題になっている。高齢者がコールセンターやレストラン、店頭などで理不尽なクレームをつける、つまり悪質なクレーマーとなっている例が激増しているのだ。迷惑行為アンケートによれば、接客係の70%以上が過去1年以内に迷惑行為を受けており、しかも悪質なクレームは圧倒的に高齢者からが多いという。

 なぜ高齢者はキレるのか。これには環境の変化と疾患の2つの問題があるという。例えば定年退職後の虚無感、仕事も人間関係もなくなり社会的孤立に陥る。「部長だった俺が」のプライドもある、だが定年後の元部長には内にも外にも居場所がない。孤立しイライラがたまり、その結果フラストレーションを抑えられずに店頭で怒鳴ったりする行動に出る。

 医学的な原因は高齢により脳の前頭葉が収縮し判断力や感情の抑制力が低下し怒りを抑えられなくなる。つまり感情をコントロールできずにキレやすくなる。では、この厄介な老人たちをどう扱えばいいのか。疾患が原因の場合は徹底的に治療してもらうしかない。居場所がなくなり孤立すれば高齢者でなくとも、誰でもイライラはする。孤立してイライラしているということは孤独に耐えているということでもある。

 ならば、この「寂しい高齢者」たちに手を差し伸べ、居場所を提供してやり、仲間とつながるチャンスを提供してやることが解決策ではないだろうか。彼らに趣味、学習、農作業、ボランティア、スポーツなどに誘い「孤立から脱出」する手助けをする。国が、行政が、町内が中心となって寂しい老人に手を差し伸べてやる必要がある。

 その際重要なことは、上から目線ではなく誇り高き高齢者の自尊心を傷つけないように十分注意と敬意を払うことである。

 クレームを受ける側も理不尽なクレームには毅然(きぜん)とした態度を取ることが重要だ。客は神様ではない。サービスを提供する側と受ける側は平等である。商売とは客の期待に応えることであるが、理不尽なクレームに応える必要はない。

 定年あるいは引退の時は誰にでも必ずいつかやってくる。定年前に定年後のライフプランを策定し事前に居場所を自分で作っておく、人生を2回楽しむ、この気持ちが大切だ。旺盛な好奇心を持ち、新しい人との出会いを受け入れ、常に頭と身体を忙しくしておく。

 社会が高齢者を守り大切にすることは当然の責務であるが、老人だからといって理不尽な要求をのむ必要もない。高齢者自身も隣人を愛し、また隣人からも愛されるよう努め、晩節を汚さず尊厳を持って残りの人生を過ごす。そんな生き方をしたい。と、前期高齢者の筆者も思っている。

 平松庚三(ひらまつ・こうぞう) 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長。他にも各種企業の社外取締役など。北海道出身。