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SNS使い接近 身近に忍び寄る中国産業スパイの脅威

 大手化学メーカー「積水化学工業」(大阪市)のスマートフォン関連技術を中国企業に漏洩(ろうえい)したとして、大阪府警は10月、不正競争防止法違反容疑で男性元社員(45)=懲戒解雇=を書類送検した。中国企業は誰もが使うSNSを通して元社員に接近しており、中国の産業スパイ網が身近に忍び寄っていることが明らかとなった。

 平成30年、中国・広東省の通信機器部品メーカー「潮州三環グループ」の社員は、ビジネスに特化したSNS「LinkedIn(リンクトイン)」で元社員に接触してきた。元社員はリンクトインで、スマホのタッチパネルなどに使われる電子材料「導電性微粒子」の研究をしていることを明らかにしていた。潮社は元社員を複数回中国に招くなどして関係を深めた末、技術情報の交換を持ちかけてきた。

 「社内での研究者としての地位が高まる」。元社員は30年8月~昨年1月、導電性微粒子の製造工程に関する電子ファイルや画像などを潮社の社員に2回にわたってメールで送信した。だが、潮社側からの情報提供はなく、一方的にだまし取られる形になった。

 SNSは便利だが、スパイ側にとっても相手の経歴に加え、生活状況や勤務先での待遇をどう感じているかなどを見極める絶好の手がかりとなる。

 日本でSNSを悪用した産業スパイが事件化されるのは異例だが、アメリカでも中央情報局(CIA)の元職員が、同じくリンクトインを通じて接触してきた中国のスパイに機密書類を売り渡したとして有罪判決を受けている。

 最先端技術をめぐる国際競争は激化している。日本も不正競争防止法を改正して罰則を強化しているが、さらなる対策は急務だ。

 企業側の意識改革も欠かせない。今回、新たな産業スパイの手口が明らかになったのは、積水化学が府警に告訴したからだ。

 日本では、情報漏洩が発覚しても「身内の恥」として泣き寝入りする場合も多かった。しかし、事件化しなければ罰則も意味をなさない。積水化学は情報管理が不十分だった面もあるが、被害企業として毅然(きぜん)とした対応をしたといえる。

 流出防止の対策を徹底しつつ、違法行為があれば司法の場でしかるべき措置をとる。こうした積み重ねによって国全体で危機意識を高めなければ、中国の老獪(ろうかい)さに対抗できない。(野々山暢)