今年のボージョレ・ヌーボーは陸路輸送 低コスト、環境保全にメリット
今年もフランス産のワイン「ボージョレ・ヌーボー」が日本に届く季節になった。11月19日の解禁日に間に合わせるために、羽田空港や関西国際空港では相次いで初荷が到着している。ところが、新型コロナウイルスの影響で今年は航空便が大幅に減ったため、鉄道による陸路輸送に切り替える輸入業者も出てきた。空路より輸送費が約3分の1に抑えられるため販売価格の引き下げにつながり、さらには温暖化ガス排出量の削減にも効果があるという。今年の新酒はひと味違ったものになりそうだ。(牛島要平)
9500キロの道のりを1か月で
「列車はカザフスタンに入るところです」
今月下旬、酒類の卸・小売りや輸入を手掛ける徳岡(大阪市)の本社で興奮した声が響いた。
13トントラック29台分のボージョレ・ヌーボーを積み込んだ貨物列車の行程が順調という知らせ。フランス・ボージョレ地区で5日に出荷されたワインは、リヨンから中国・義烏まで約9500キロの道のりを進み、上海からは船便で、11月上旬に大阪と東京に到着する予定だ。
「港から全国に配送する時間も必要。必ず解禁日までに届けなければ」。ポーランドの国境地帯では予定通りに進まず、数日間停車してしまっただけに、同社幹部はやきもきした思いで荷物の到着を待つ。
縮小する市場に危機感
11月の第3木曜日の午前0時と決まっている解禁日に間に合わせるため、従来は出荷から5~7日程度で日本に到着する航空便を利用する輸入業者がほとんどで、徳岡もこれまでは航空機を利用してきた。
一方、鉄道と船による輸送には1カ月程度の時間がかかる。欧州とアジアを直接結ぶシベリア鉄道はこの時期気温が低く、ワインの輸送には適さないため、シルクロードに近い南の鉄道を使うが、国境ごとの通関検査や荷物積み替えなどで足止めされることもあり、解禁日に遅れるリスクもあるという。
それでも徳岡が陸路輸送に踏み切った背景には縮小する市場への懸念がある。ボージョレ・ヌーボーの国別輸出数量のうち約5割を占める日本への輸出数量は昨年まで7年連続で減少。1本2千~3千円と高止まりする価格が人気の落ち込みに関係しているといい、輸送コストを抑えて価格引き下げを図りたい考えだ。
「生産者にも危機感が募っている。航空機で運ぶビジネスモデルは行き詰っている」。徳岡のグループ会社、南アルプスワインアンドビバレッジ(山梨県笛吹市)の会長兼社長で今回の輸送プロジェクトを指揮する、徳岡豊裕さん(76)はこう話す。陸路を使えば、二酸化炭素(CO2)の排出量も20分の1に抑えられるといい、「地球環境に配慮した商品」のPRも可能だ。
大手にも広まる空輸からの転換
今年は新型コロナの影響で航空会社が大幅減便していることなどを受け、輸送便を確保できるように現地で出荷可能日が早まったことも、陸送への切り替えを可能にした。徳岡では8~9月に実際にワインを列車に積み込んで運ぶ実験を行い、品質管理に問題ないことを確認。徳岡さんは「本番での失敗は許されない。これは大きな賭け。これがうまくいけば大手にも陸路切り替えを働き掛けたい」と話す。
キリンホールディングス(HD)子会社で、大手輸入業者メルシャンも、一部の商品をフランスから日本までの船便で運ぶ。12月上旬に到着する予定で、同HDの広報担当者は「店頭に並ぶのが遅れても、ゆっくり手頃な値段でボージョレを楽しみたいというニーズに対応できる」と話す。
企業が、環境保全や社会問題への積極的な取り組みを求められている時代に温暖化ガス排出量を削減できるのも魅力。同HDでは来年以降の、船便輸送の活用を検討している。ボージョレ・ヌーボーが陸路、海路で日本に届く動きは今後広がりそうだ。
関西国際空港には今年のボージョレ・ヌーボーが到着している。23日に関空での初荷を運び入れたサントリーワインインターナショナルは輸送手段について、「基本的に空輸以外は考えていない」としている。
空輸にこだわる理由として、同社の稲葉響子・輸入ブランド部課長は「現地でしっかりワインを熟成させてから出荷したい。鉄道では輸送の日程が読み切れず、万が一、解禁日に1日でも遅れては元も子もない」と説明する。
ただ、今年は新型コロナウイルスの影響で出荷の日程などが不透明だったため、一部商品を香港まで空輸して船便で東京まで運ぶなどのリスク分散を行ったと明かす。
新型コロナの影響が心配されてきた今年のボージョレ・ヌーボーだが、「果実の香りと余韻が残る芳醇(ほうじゅん)な味わいに仕上がった」という。