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奈良県内で害虫の被害急増、農家が悲鳴「自分が食べる米を買わなければ…」

 稲刈りの時期を迎えている奈良県内の水田で、稲に寄生する害虫「トビイロウンカ」の被害が拡大している。9月以降、水分などを吸い取られた稲がまとまって枯れる「坪枯れ」が急増しており、奈良県農業協同組合(JAならけん)などは農家に早めの収穫を呼び掛け始めた。農家からは「(自分が食べる)米を買わなければいけないような事態だ」と悲痛な声も聞こえる。(前原彩希)

奈良県内で大発生しているトビイロウンカ=奈良県広陵町
トビイロウンカによる「坪枯れ」被害が広がっている水田=奈良県広陵町

 「こんなことは初めて。一生懸命頑張ってきたのに悔しい」

 そう肩を落とすのは、広陵町の農業、久本和夫さん(79)。9月中旬ごろ、自身の水田で変色がみられ、トビイロウンカを防除する薬を散布したが、被害は止まらず「収穫できる米は例年の半分以下になりそうだ」という。

 トビイロウンカは体長3~5ミリほどで、毎年、梅雨時期に中国大陸から風にのって飛来する。県病害虫防除所(桜井市)は、今年は例年よりも早い6月ごろに発生を確認し、7月31日に注意報を発令。8月まで被害はほぼなかった。

 ところが、9月以降、急激に被害が拡大。同17日に第2報を発令した。9月下旬に、各市町村の水田100枚を目安に調査すると、発生ほ場率は47%にのぼった。

 同所は、今年は大陸からの飛来数が多く、7月ごろに九州などで数が急増した影響で、県内への飛来数が増えたと推測する。予防のため、田植え前に薬を散布するが、担当者は「効果は7月ごろまで。再度、散布するかを判断するが、近年は被害が少ないため控えた農家も多く、被害が広がったのでは」という。

 トビイロウンカはわずか約1カ月で、世代交代し、数を増やしていく。

 農家からは「これまでは薬を散布すれば被害が止まったが、今年は止まらない」という声も。県病害虫防除所の担当者も「薬に耐性のあるウンカがいるという噂もある」とし、「虫の防除法、薬散布のタイミングなど、検討し直す必要がある」としている。

 JAならけんには、9月中旬から農家から対処法などの問い合わせが、1日10件以上も殺到。広陵町、葛城市、大和高田市、田原本町などの被害が大きいという担当者は「平成以降、ここまでの被害は経験したことがない」と驚く。現在、収穫直前で農薬が使えないため、早期の収穫を呼び掛けている。

 収穫した米の乾燥などをする施設「ライスセンター」の稼働を10日ほど前倒し。担当者は「例年なら収穫は1週間先で、米の粒が従来より小さくなり、規格に合わず出荷できないものも出てくる可能性もある」と懸念している。

 久本さんは「来年も被害が出そうなら、もう米を作らない人もいるかもしれない。なぜこれだけ被害が出たのか分析し、刈り取り後に何をすればよいのかも教えてほしい」と話した。