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旅行先で仕事をする「ワーケーション」実証実験 課題も浮き彫りに

 新型コロナウイルスの感染拡大により観光客の減少にあえぐ栃木県日光市は、民間企業と共同で、旅行先で仕事をする「ワーケーション」の実証実験を行った。参加者からは「リフレッシュでき、仕事のアイデアも浮かぶ」と肯定的な意見があった一方、労務管理上の問題や業務環境の課題も浮き彫りに。同市は「課題を整理しつつ、最終的には移住者の増加を目指していきたい」と期待を込める。(根本和哉)

ワーケーションの感想や課題を話し合う実証実験の参加者=8月下旬、日光市中宮祠(根本和哉撮影)
ワーケーションの感想や課題を話し合う実証実験の参加者=8月下旬、日光市中宮祠(根本和哉撮影)

 「とても快適」

 8月下旬、快晴に包まれた同市の中禅寺湖畔のホテルで、ワーケーションの利点や課題が話し合われていた。参加したのは同市や県の職員と、NTT東日本栃木支店(宇都宮市)の社員ら。見渡す限りの山々と美しい湖に囲まれた参加者は、活発に意見を交わしていた。

 同社社員は前日から中禅寺金谷ホテル(同市中宮祠)に滞在し、客室からのリモート業務を体験した。参加した同社の福田圭さん(37)は「ふと目をやると自然がある。リフレッシュになり、会社で作業するよりもアイデアが出てきた。インターネットの会議システムですぐに同僚と話せるので不便な点は全くなく、とても快適だった」と話した。

 ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を合わせた造語で、観光地に滞在し、パソコンやテレビ会議システムなどを通じて仕事をする概念。2000年代に米国で生まれたとされる。労働者は時間や場所を選ばずに働くことができ、雇用者である企業側も従業員の働き方改革を推進できるというメリットがあり、コロナ禍で日本でも注目を集めるようになった。

 首都圏からのアクセスが良く、世界遺産「日光の社寺」などの豊富な観光資源を持つ同市は、ワーケーションを推進して、落ち込みが激しい観光業界の復活への起爆剤としたい考えだ。

 課題も浮き彫りに

 「どこまでが仕事なのか」「環境整備が足りない」。実証実験の参加者らによる意見交換の会議で、ワーケーションの利点だけでなく、多くの課題も浮かび上がった。

 まず挙がったのは、企業側の労務管理の難しさ。企業側は労働基準法などの労働法制を守りつつ、社員の勤務実態を把握しなければならない。当然、ワーケーションの言葉を逆手に、旅先などで社員をいつでも自由に働かせて良いということにはならない。

 一方で、どこまでが仕事でどこまでが休暇なのかの線引きが難しく、ワーケーション先への交通費、宿泊費などを労働者と雇用者でどう分担するべきかということが問題となる。雇用者にとっては、社員の休暇取得状況の管理も難しい。滞在先で、災害や事故に巻き込まれた場合の労災の取り扱いも、細かな状況の検討が必要となる。ちなみに今回は、実証実験への参加という業務にあたる。

 滞在先の環境整備も必要だ。セキュリティー上の安全が担保されているインターネット環境や各自のワーキングスペースはもちろん、休憩や食事のための施設も十分に用意する必要が出てくる。現状で安定的にワーケーションを受け入れることができる滞在先は限られる。

 例えば、今回のホテルは無料の無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」が完備され、館内での仕事に問題はなかった。一方、近隣の湖畔にあったテーブルといすを、参加者はワーキングスペースとして目を付けたが、ここにはネット環境が整備されていなかった。

 市は、あぶり出された課題について同社と検討を重ね、環境整備を進める考えだ。7月の補正予算に事業費として500万円を計上し、ワーケーションで訪れる人の宿泊料金を補助する制度の実施も決めた。すでに興味を示している企業もあるといい、ワーケーション推進によって平日の人出を増やし、観光振興や移住者増加につなげたいとしている。

 市総合政策課は「今回浮かんだ課題をもとに、環境整備を進め、本格的なワーケーションのモデルを作っていきたい」としている。