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破綻ドミノ迫るアパレル 消費者の価値観変化にコロナ禍が拍車

 アパレル業界が「破綻ドミノ」の危機に瀕(ひん)している。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛などの影響で各社の販売は大幅に減少。5月には名門レナウンが経営破綻するなど、ダメージの大きさは飲食業界や宿泊業界と並ぶ。大手各社は衣料品をめぐる消費者の嗜好(しこう)の変化などへの対応が遅れていたところをコロナ禍に見舞われ、弱り目にたたり目の状況だ。長年の悪弊とされてきた過剰仕入れの商慣行から抜け出す動きもみせているが、新型コロナがもたらす新たな変化への対応を含めた事業改革の成否が問われている。

 総崩れに近い現状

 「供給側では大半が失敗者で、成功者はごく少数に限られている。現場では相当、危機感をもってやっている」

 三陽商会の大江伸治社長は総崩れに近いアパレル業界の現状に神経をとがらせる。

 大江氏は業績低迷が続いてきた三陽商会に外部から招かれた「再生請負人」だ。スポーツ衣料大手、ゴールドウインの経営を立て直した実績を買われて5月26日付で社長となった。

 しかし経験豊富な大江氏でさえ「(コロナ禍で)想定外の部分はある」と頭を抱える。全店舗の1割強に当たる約150店の閉鎖をはじめとする構造改革に加え、東京・銀座のビルの売却などにより財務基盤を強化した上で改革を加速させる構えだが、目標とする2022年2月期の黒字化達成は予断を許さない状況だ。

 苦境に陥っているのは三陽商会だけではない。東京商工リサーチによると、8月31日時点で新型コロナ関連の破綻(負債1000万円以上)は累計441件。外出自粛や店舗休業の影響を受けたアパレル関連は51件と飲食業(65件)に次いで多く、宿泊業(43件)を上回る。

 5月中旬に経営破綻したレナウンはスポンサー探しが難航。8月21日にようやく紳士服「ダーバン」など主要5ブランドを小泉(大阪市)のグループ企業に売却することが決まったが、レナウン本体は清算される見通しとなった。

 レナウンや三陽商会に限らず、集客力が低下している百貨店を主戦場とするメーカーでの苦戦が目立つ。オンワードホールディングスやワールドも大量閉店や希望退職の募集に踏み切っている。

 構造問題を放置

 もっとも、多くの場合、コロナ禍の前から経営は低迷していた。大手幹部は「(コロナ禍で)より苦しくなったのは確かだが、環境変化に対応せず、構造問題にメスを入れてこなかったことに問題がある」と自戒を込めて語る。

 衣料品に対する消費者の価値観はこの数十年で大きく変化した。その表れが消費額の落ち込みだ。

 総務省の調査によると、「被服及び履物」への支出(2人以上世帯)は19年で約13万5600円で、00年に比べ3割以上も減った。生活防衛意識を高める消費者は必要なものにしかお金を使わず、スマートフォンなどへの支出を優先。「クールビズ」に象徴されるオフィスの軽装化や、社会進出の結果として女性が仕事着と普段着しか買わなくなったことも単価下落に拍車をかけたとされる。バブル期に何万円もする「DCブランド」の服が飛ぶように売れていたことを考えれば、まさに隔世の感がある。

 「作りすぎ」慣行 断ち切れるか

 こうした傾向を追い風にしたのが、ユニクロを代表格とするファストファッションと呼ばれるメーカーだ。製造から販売まで一気通貫で手掛け、中国など人件費の安い国で製造し、中間コストをカットして価格を抑える。その一方で顧客の反応を商品企画に素早く反映させ、多くの消費者を取り込んでいった。

 しかしそのファストファッションでさえ、電子商取引(EC)の普及という激震に襲われている。消費者は安くて品質の良い商品をさらに入手しやすくなる一方で、メーカー間の競争は激化し、リアルな店舗の収益力が低下している。

 アパレル大手にとってより深刻なのは、業界に長年はびこってきた「作りすぎ」が一向に改善されていないことだ。

 市場が縮小しているにもかかわらず、多くのメーカーは商品を過剰に販売し、売れ残りをセールで割り引く慣行を改めようとしなかった。こうした慣行が値引き拡大を招き、正価への不信や消費意欲の減退にもつながっている、との指摘は根強い。

 日本で販売される衣料品の実に半分は売れ残り、廃棄処分されているといわれる。コロナ禍による売れ残りの増加で、「内在していた供給過剰の矛盾が一気に現実化した」(ワールド)形だ。

 衣料品の大量廃棄は、環境保護の観点からも問題視され、最近はブランドの価値にまで悪影響を及ぼすようになっている。

 三陽商会の大江氏も「悪しき」慣行との決別を目指している一人だ。「秋冬の仕入れは徹底して絞った。欠品は覚悟の上だ」と改革への決意を強調する。

 ただしコロナ禍が収束したとしても、どこまで客足が戻るかは見通せない。在宅勤務の定着などで軽装化が進み、衣料品への支出がさらに落ち込むとの見方もある。新しい生活の在り方が定着していく中で、アパレル業界でメーカーの淘汰(とうた)が進むことは確実。ここ1、2年の間に悪循環を断ち切り、新たなビジネスモデルを確立できるかが明暗を分けそうだ。(井田通人)