動き出した働き方改革

橋下徹氏×高橋恭介氏(2-1)「いまが働き方改革の最大のチャンス」

 日本働き方会議名誉座長・橋下徹氏×「あしたのチーム」社長・高橋恭介氏

 いまこそ最大のチャンス

 政府の働き方改革を後押しし、新時代の「働く仕組み」を提唱する日本働き方会議が本格的に動き始めた。コロナ禍はこれまでの仕事のあり方を大きく変えた。未来の働き方はどうあるべきなのか。会議の名誉座長を務める橋下徹氏と人事評価プランを提案する「あしたのチーム」の高橋恭介社長に語り合ってもらった。(司会進行はフジサンケイビジネスアイ社長 鶴田東洋彦)

橋下徹氏
高橋恭介氏

 進まなかった働き方改革

 鶴田 新型コロナウイルスがテレワークをはじめ、従来の働き方を変えてしまった感があります。どんな印象を持たれていますか。

 橋下 働き方改革はずっと議論され、何をすべきかみんな理解しているのに、それを実行してこなかった。理由はやり方を変えるのが面倒な上に、改革に踏み切らない方が逆に利益を受ける部門の人たちがいて、彼ら彼女らが反対したことも大きい。ところがコロナ禍で強制的にやらざるを得なくなった。いまが改革の最大のチャンスだと思います。

 高橋 米国では10年以上も前に電子署名サービスが登場しました。日本でも弁護士ドットコムがクラウドサインを運営するなど、電子化が進みつつありますが、まだまだ発展途上の段階ですね。いわゆるハンコ文化からなかなか抜け出せない。

 橋下 役所業務のデジタル化も課題です。効率化すれば住民サービスが大きく向上しますが、効率化を求めるとこれまで非効率なことをやってきた人たちがみなそぎ落とされてしまう。大阪府知事の時代に、思い切った効率化に取り組みましたが、やはり抵抗がすさまじく、働き方改革も十分に進まなかった。デジタル化を避けて、あえて非効率な仕事のやり方を続けてしまうんですよね。

 高橋 普通のオフィスなら5割くらいテレワークに移すのは難しくないと思います。現在、さまざまな業種で問題となっている職場のハラスメントも圧倒的に減るでしょう。

 橋下 これまで上司は部下が職場に来たことだけを確認すればよかったわけですが、テレワークだとそうはいかない。上司は、部下たちがどれだけ仕事の量や質を高めているのか、つまり仕事の成果をしっかり把握し、評価しなければなりません。管理職のマネジメント力が問われます。

 メンバーシップ型からジョブ型へ

 鶴田 コロナ禍は、働き方の仕組みそのものを変えつつあります。その中で、企業の意識改革も一気に加速することになるのでしょうか。

 高橋 日立製作所が来年から仕事の中身に人を割り当てるジョブ型雇用の導入を打ち出しました。あれだけの巨大グループがここまでやれるのはすごい。新卒一括採用、年功序列、終身雇用に象徴される日本の伝統的なメンバーシップ型雇用からの大転換です。これからどう変えていけるかが今後の課題だと思います。

 橋下 確かに企業経営者もメンバーシップ型の雇用には危機感は持っているはず。ただ尻に火がついてからでは手遅れになる。コロナ禍を大きなきっかけとして、トップが断行する以外ないと思います。

 鶴田 日本的経営では社員同士、目と目で会話する所に仕事の真骨頂がある、そんな育て方をしてきました。日本人の働き方の原点は、戦後の経済成長を支えてきた終身雇用制度、まさにメンバーシップ型雇用にとらわれてきたところにあり、そこから抜け出すのはなかなか難しいように思えます。

 橋下 確かにメンバーシップ型で頂点に上り詰めた人間が、組織を急にジョブ型に変えるのは難しいと思います。企業の内部から一気に改革が進んでいくとは考えにくい。そこは外部の人材の力も借りてタッグを組み、ジョブ型にかじを切っていく努力が必要でしょう。

 高橋 事なかれ主義の企業ではまだ働き方改革にメスが入っていない。実行できるかどうかは大企業、中小を問わず、トップの覚悟一つ。まさに経営者の真がんが問われています。いつまでも、長老格の人間が残って業務に関与するような組織では駄目です。現実に、いくつかの企業では外部から招いたプロ型経営者が思い切った改革を断行、働き方を変革したケースも出てきていて、評価もされています。

 橋下 維新の会が大阪では自民党と対抗できる組織になったのも、僕がトップを辞めてからは一切関与しないからです。吉村洋文知事、松井一郎市長の新体制で僕のやり方の悪かった部分は思い切って変えていく。僕の残像を切り捨てる(笑)。以前のやり方にしがらみがあれば、いまの組織にはなっていません。新陳代謝が組織には一番重要です。

 可視化が求められるマスメディア

 鶴田 メンバーシップ型と言うと、やはり重厚長大型の企業に多いのではと思います。経営者がジョブ型に変えるのはいいと頭でわかっていても、組織に構造的な問題も残っており、改革の時代についていけないのでは。

 橋下 改革といっても以前やっていたことを全否定する必要はありません。それだと社員がついてこなくなりますから。ただ、逆に伺いたいのですが、情報をいち早く入手し、社会の先陣を切るメディアの中核である新聞社でさえ、旧来の慣例を変えられていないのが現状ではないでしょうか。

 鶴田 確かに、仕事の可視化が最も遅れている業界の一つがメディアかもしれません。反省を込めて言うと、とくに新聞社はそうですね。「俺はこう仕事してきた。だからお前も同じようなやり方でやるべきだ」というギルド的なものがまだ根強く残っているのかもしれません。

 橋下 逮捕事実を夜討ち朝駆けで他社より一刻も早く抜く。現場の記者はそこに命を懸けているように見えますね。もちろん、同業他社に負けたくない、いち早くスクープしたいという記者の気持ちがわからないわけではありません。ただ現状のままなら、マスメディアは生き残っていけないように思えてなりません。どのような仕事が評価され、どこを目指せばいいのか。そこが“見える化”されていかないと組織は誤った方向にいってしまう。どんな業種でもそうですが、人事評価は組織運営で一番重要なことだと思います。

 高橋 仕事の契約文化が日本と海外では決定的に違いますね。アメリカの契約は未来志向です。雇用契約書はものすごい厚さ。権利義務や目標管理も含め、すごく細かいところまで設定する。笑顔が良ければ5ドルアップとか。仕事の対価を徹底して考えている。これに対して日本はぺら一枚。こうした契約文化の違いも働き方や人事評価の違いにつながっているのではないでしょうか。