半年弱の休業で苦境の中国映画界 「米国越え」に水差した新型コロナ

 
上海市内の繁華街に掲示された、長澤まさみさんも出演する中国産探偵映画「唐人街探案3」の看板。1月の春節期間中に公開予定だったが、今も上映されていない=6月(三塚聖平撮影)

 【中国観察】

 中国の映画業界の苦境が深刻になっている。新型コロナウイルスの感染対策のため、今年1月から半年弱に渡って映画館の休業が続いているためだ。今年の損失額が4500億円を上回る規模になるとの見通しもあり、心労から映画会社幹部が非業の最期を遂げるという悲劇も起きている。近い将来、米国を追い越す勢いだともいわれてきた中国の映画市場。北京市を中心に「感染第2波」が警戒されたことにより映画館の再開機運が遠のいたとも指摘され、苦悩は当面続くとみられる。(中国 三塚聖平)

 「長期の不眠と心理的な抑圧」

 6月10日早朝、映画館の運営や映画制作を手掛ける「博納影業集団(ボナ・フィルム・グループ)」の黄巍(こう・ぎ)副総裁が北京市内で転落死した。同社は「身体的な理由による長期の不眠と心理的な抑圧」に起因するものだとSNSを通じて説明した。

 中国誌の財新(電子版)によると、黄氏は映画館の投資・建設を担当していた。同社は北京や上海などに映画館41館を有しているが、今後3年以内にこれを200館にまで増やす計画だった。しかし、新型コロナの影響で拡大計画は棚上げ状態になっていた。

 黄氏の悲報に接した関係者が「業界の悲しみだ」と受け止めたのは、中国映画業界全体が未曽有の危機的状況に直面しているからだ。

 再開の期待を裏切られ

 1月下旬、新型コロナの感染拡大が深刻化したことを受け、中国各地では映画館が一斉に休業を余儀なくされた。この時期は書き入れ時の春節(旧正月)の連休期間だったが、公開が予定されていた新作映画の上映は軒並み延期に追い込まれた。

 その後、中国国内での感染状況が落ち着く中で、3月中旬には新疆ウイグル自治区など一部地域で映画館の再開が始まった。業界内では、5月頭の労働節(メーデー)の連休に向けて本格的な再開が近いと期待されていたが、状況は一気に暗転した。

 映画業界を所管する国家映画局は3月下旬、緊急通達を出した。全ての映画館は営業停止を続け、再開済みのものは再び休業するよう求めるものだった。感染の再流行を警戒したための措置とみられるが、映画業界には失望感が広がった。

 5月上旬には中国政府が、映画館について「予約や人数制限」などの対策をとった上での再開を認めたが、実際には思うように進まなかった。さらに、首都・北京で感染拡大が深刻になり、6月11日に北京市政府が映画館について「しばらく開かない」との方針を示した。

 観光業や飲食店の再開が進む中で、「なぜ映画館だけが再開できないのか」という思いが業界内で募っている。

 長澤まさみさんも出演の新作上映は来年?

 この半年弱、中国映画業界の“傷”はどんどん深くなっている。中国紙、北京日報(電子版)によると、4月下旬に国家映画局は、今年の興行収入の損失額が300億元(約4500億円)を上回るとの見通しを明らかにしている。

 まったく営業ができずにいる今も、従業員の給料やテナント料といったコストが運営会社にのしかかっている。そのため映画館の閉鎖も続いていると指摘される。5月中旬には中国財政省などが、映画業界を支援するため税制優遇措置を実施すると表明しているが、業界を襲う深刻な苦境を救うには力不足とみられる。

 映画業界は、さらなる事態の長期化も見据えている。今年の春節期間に公開予定だった妻夫木聡さんや長澤まさみさんも出演する中国の探偵映画「唐人街探案3」は今も公開延期が続いているが、6月上旬に映画会社幹部は「本来は夏休み期間に上映したかったが、見たところ間に合わない」と表明。早くても10月上旬の国慶節(建国記念日)の大型連休、あるいは丸1年ずれ込んで来年の春節期間になるとの見通しも伝えられる。

 米に迫っていた中国映画市場

 新型コロナは成長を続けていた中国の映画業界を襲った。

 中国全体の興行収入は、2019年には前年比5・4%増の約642億元(約9700億円)。110億ドル(約1兆2千億円)規模で推移している北米市場の興行収入に迫っていた。中国の映画制作会社幹部は「正常な状態だったら、近く米国市場を超えるかもしれないと期待されていた」と疲れた表情で話す。

 今のような苦しい状況が長期化すれば、今後の中国映画市場の成長性にも影響を与える可能性がある。