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QRコード決済の規格統一、手数料問題で連携に早くも“ほころび”

 消費税増税に伴うポイント還元制度などを背景にしてペイペイやd払いなど多くのQRコード決済が浸透した昨年の流れを勢いづかせようと、政府は今年、複数のQRコード決済が使える統一規格「JPQR」の導入を全国で始める。事業者の乱立で生じた分かりにくさの改善につながると期待され、総務省は22日から導入店舗の受け付けを開始した。ただし事業者側にも思惑があるとみられ、連携には早くもほころびが出始めている。

QRコート決済の利用率

 「お客さまにとっては支払いの選択肢が増える。まだ慣れないけど、頑張って対応しています」。東京・霞が関の中央合同庁舎2号館の弁当専門店「屋台DELi(デリ)」の従業員の女性はそう笑う。

 JPQRの旗振り役である総務省のおひざ元にあるこの店では6月から先行的にJPQRが導入された。運営会社のワオによると客の2割程度がQRコード決済で代金を払うという。

 JPQRの狙いは事業者が乱立するQRコード決済の分かりにくさの解消だ。QRコード決済は平成30年末ごろから始まったペイペイなど各社による大規模な消費者還元キャンペーンに、政府のポイント還元策が加わり、広く浸透した。だが、各社が異なる規格を用いているため、店舗側は複数のQRコードに対応する必要があり、店舗や利用者にとって分かりにくさの原因となっていた。

 JPQRでは、導入した店舗はレジ回りに統一QRコードを掲示し、その下に自店として取り扱うJPQR参加事業者を明示する。従来はサービスの数だけQRコードを設置する必要があったが、統一QRコードを1枚張るだけなのでレジ回りがすっきりとする。

 また店舗が各事業者と個別に行っていた契約手続きも一本化される。このため複数のサービスが使える店舗が増え、利便性が向上すると期待されている。

 JPQRは昨年3月、産官学でつくるキャッシュレス推進協議会が策定。22日に新たに中国のウィーチャットペイが加わり参加事業者は19社となった。総務省の担当者は「主要な事業者はすべて入った」と話す。

 外国人観光客対策にも

 JPQRの普及は外国人観光客対策としても重要だ。中国アリババグループの「アリペイ」など主要なサービスならば日本でも一部で使える店舗があるが、海外決済サービスの多くは使えないのが現状だ。「日本で多くのお金を落としてもらう」(政府関係者)ためには多くの国の決済サービスが使えることが望ましいとはいえ、海外の事業者が日本で加盟店を開拓するのは難しい。

 だが、海外の事業者がJPQRに参加すれば、外国人旅行者が母国のサービスを使える店舗が増える可能性はある。JPQRのような規格統一の動きは海外でも広がっており、日本政府は統一規格を持つ国に相互乗り入れを呼び掛けることも検討している。

 フィンテック協会の丸山弘毅会長も「利用者と店舗側の双方にとって分かりやすい制度だ」と強調。その上で、新型コロナウイルスの感染拡大で人の接触を極力減らした生活が求められる中、「飲食店のテーブルにQRコードを設置したセルフ決済など新たな活用も想定される」とする。

 手数料問題が浮上

 一方、大きな課題も浮上している。店舗が決済額に応じて事業者に払う加盟店手数料について、最大手のペイペイが自社独自のQRコードを使った支払いでは無料としつつ、JPQRでは有料とすることが分かったのだ。

 ペイペイは事業開始当初から決済手数料を無料とするキャンペーンで独自に加盟店を開拓し、来年9月まで無料を続ける。しかし総務省の資料によると、ペイペイはJPQRによる支払いでは店舗から1.99%の手数料を取り、来年10月までの間、段階的に3.24%まで引き上げるという。

 ペイペイは「事業戦略上の理由」とするが、ある関係者は「店舗側にペイペイを使わせるための戦略だ」と分析する。店舗側にとっては独自QRコードでの支払いが無料であれば、JPQRの導入後もペイペイの独自QRコードを統一QRコードとは別に掲示し、利用を促すことが想定されるからだ。

 このままでは乱立するQRコードを一本化するという政策意図が揺らぎ、JPQR普及の妨げにもなりかねない。高市早苗総務相も「決済事業者にはできるだけ安い手数料率にすることをお願いしたい」と呼び掛けるが、ペイペイは沈黙を続けており、先行きは見通せない。

 QRコード決済には店舗に設置されたQRコードを読み取る方式(店舗提示型)と、利用者がスマートフォンの画面でQRコードを見せる方式(利用者提示型)の2通りがある。

 店舗提示型はQRコードを利用者がスマホで読み取り、金額を入力して決済する。導入コストが安いのが特徴で、小規模店に多い。税金の支払いにこの方式を用いる自治体も出てきている。一方、コンビニエンスストアなどが導入している利用者提示型は、スマホにQRコードを表示するだけなので、利用者にとっては利便性が高い。

 経済産業省のポイント還元策で、3月末までに使われたキャッシュレス決済のうち約16%がQRコード決済だった。(蕎麦谷里志)