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ネット書店で在庫切れ急増 アマゾンなど生活必需品の配送優先

 新型コロナウイルス危機でインターネット通販の需要が高まる中、アマゾンなどネット書店で本の「在庫切れ」が急増している。出版社に在庫があっても、緊急事態下の“優先度”から後回しに。自宅で楽しめる「読書」もしづらくなってしまう状況だが、打開策を講じる出版社も出てきた。

 「外出できないし、アマゾンで本を注文しようと思ったら欲しかった本がみんな在庫切れだった」-。会員制交流サイト(SNS)で今、そんな投稿が飛び交っている。

 出版社が取次会社を通じ、書店に本の販売を委ねる委託販売制度を取る日本の出版界。出版社に尋ねると、ネットで在庫切れでも出版社や取次には「本はある」。

 関係者によると、アマゾンは3月から納品制限を始めた。書評で評判になった既刊本などの在庫が払底し、出版社が働き掛けても追加納品を受け付けないことが多いという。例えば岩波新書では今年初めの刊行本まで「在庫切れ」となり、古書価格も高騰している。

 大手出版社の営業担当者が説明を求めたところ、通販需要が過熱して配送拠点の業務が滞り、本の追加発注を制限したと釈明。中堅出版社には「生活必需品や衛生用品を優先せざるを得ない」とのメールも届いた。

 「本の優先度を下げられて悔しい」(大手営業担当)との憤りの声の一方「この状況では仕方ない」(地方出版社経営者)と諦めも。ただアマゾンは今や、売り上げで国内最大の書店とされ、多くの書店が休業する状況では出版社のダメージは大きい。アマゾンの広報担当者は「可能な限り早く通常のオペレーションに戻すことができるよう努めている」と述べた。

 出版ジャーナリストの成相裕幸さんは「書籍販売から事業を始めたとはいえ、アマゾンにとって本は他の商品よりうまみが少なく、不要ではないが不急と判断したのだろう」と分析する。

 本を手にするハードルは高まる一方なのか。

 取次大手トーハン運営のネット書店「e-hon」は、お気に入りの書店を登録すれば、宅配で本を頼んでも休業中の店の売り上げにつながるサービスで好評だ。ウェブなどで読者が本を直接注文できる出版社もある。

 人文書や海外ノンフィクションに定評のある亜紀書房(東京)は4月、通販サイト「あき地の本屋さん」を開設。「在庫切れ」などを受けた対応で、アマゾンで欠品の本が売れている。担当者は「本を読者に届ける出口を一つでも増やし、読者と本を結ぶ新しい形を探りたい」と話している。