水素燃料車「MIRAI」 混迷の時代に新しい“未来”を期待
最近20年来の愛車から、「未来を先取りして環境に一番貢献できる車にしよう」と水素で走る「MIRAI(ミライ)」に買い替えた。燃料電池車(FCV)は、高圧冷却した液体水素を車に注入する。スタンドで給油するのと大差ないが、エンジンの仕組みはまったく違う。ガソリンを爆発させてシリンダーの回転で運動エネルギーを得るのに対して、水素燃料は水素と空気中酸素を化学反応させ発電しモーターを回す。(京都先端科学大・旭川大客員教授 増山壽一)
ゆえに爆発音がなく静かであり、直接駆動するのでスポーツカーのような駆動性を味わえる。また、排ガスの代わりに水を発生させるので環境面は大幅に優れている。仕事の関係で、何回か乗った経験からも納得の実体験だ。
ここからは、現状の課題ともっと普及させるためにはどうすればいいかを述べてみたい。
まず水素ステーションが少ない。東京と愛知の間に集中している上に、高速道路にはほとんどない。例えば、東京から軽井沢や那須に行くとする。関越道や東北道にはないので往復できない可能性がある。
次に営業時間は、午前9時から午後5時までの所が多い。これまで東京や名古屋の法人相手に販売し、運転手がいて移動範囲が限定的。このような前提で今のシステムが出来上がっているのがよく分かる。
続いて車内のカーナビは、ガソリンユーザー向けの情報が中心で水素ステーションの情報がない。アプリによる、水素残量やステーション検索はできるが、将来的にFCVへの転換を促していくならば、今から水素ステーションの情報も入れておきたい。
現状の課題を解決するためにも、FCVの個人普及を強く推し進めていくことが不可欠だ。それにはまず「水素は安全」「水素社会こそが地球環境問題を解決する切り札である」ことを訴えていく。環境問題に強い関心を持つ個人消費者は確実に増えていて、潜在的市場は存在する。
この個人消費者を顕在化させ、MIRAIに乗ることで「地球環境問題の解決に向けてともに行動する」という満足感を与え、その満足感を貢献感に変えることが大事である。
さらに技術開発やコストダウン、法規制などの見直し。そしてこの需要を作り込む努力を自動車業界のみならず、関連企業、国や自治体が一体となって進め加速させることが重要だ。
昔、練炭業者が一斉にモータリゼーションの流れに乗り数千万円をかけてガソリンスタンドに衣替えした変革が間近だ。混迷の時代に新しい未来が見えるかもしれない。
【プロフィル】増山壽一
ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。