デジタル経営革命新時代(2-2)

デジタルに縁遠い産業ほど変化

 “総合格闘技”の時代に

 鶴田「欧米の企業にも目を向けると、日本はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4大企業)みたいな存在に過度なおびえみたいなものがあるのではないですか。彼らから見たら自分たちは小さな存在にすぎないと萎縮して、後れを取ってしまう。それは日本のガバメントの責任なのか、カンパニーの責任なのか。私は日本の企業の在り方そのものに問題があると感じています。海外の企業はスピード感を持ってどんどん先に走っていくのに、日本の企業はなかなかかじが切れない。それはやはり、トップの判断がすごく遅いからでしょうね」

 安田「私は誰かの責任にしてそれを解消しさえすれば全てが解決されるという見解には懐疑的です。おのおのの役割で自分にできることを少しずつ進めていくべきです。経営者の視点で言えば、自社の強みにデジタルテクノロジーを活用して、どう会社全体の付加価値をあげていくのかを早急に考えるべきです。技術者の視点で言えば、盲目的に特定の技術に飛びつかず、常にこれは誰のどんな役に立っているのかを考えるべきです。企画者の視点で言えば、最新技術にキャッチアップし、自社の業務をどう変革できるかを考えるべきです。日本の事業会社はデジタルテクノロジーを活用して経営変革、業務効率化をしようとするときに、全てITベンダーに任せればよいという思い込みが強い。ですが、業務のプロセスを熟知していないと正確な業務フローは描けない。正確な業務フローが分からなければ、ベンダーも改善案を思いつけません。それが今の日本企業でDXプロジェクトが進まない大きな理由だと思います。その点、アメリカの企業は、テクノロジーの内製化が進んでいて、自分の業務をどう効率化するかという観点で進めることができる企業が多いです。つまり、全員がひとごとにせず、まず自分から学び実践する姿勢が必要だと思います」

 鶴田「それは業種、業態によっても格差があるのではないですか」

 安田「いえ、最近は業種、業態の垣根がなくなり、全てが総合格闘技のように変わってきていると思います。例えば、今やトヨタ自動車とソフトバンクが同じ土俵でビジネスをする時代です。トヨタの顧客は、自動車というよりも、便利で快適な移動手段としての価値が欲しいわけです。そこで、ドライブレコーダーなど自動車に取り付けられたカメラやセンサーから得られる車内や車外のデータを使って、自動運転やMaaSの領域に取り組みます。一方、ソフトバンクは通信事業の強みからそれらにアプローチしています。私は一昨年、SBドライブの自動運転車両に乗ったのですが、ちょうどその時にソフトバンクの通信障害が起きて、走行が止まってしまいました。安定的な通信を供給するということが自動運転においては、とても大事なことなのですね。つまり、自社が活用できそうなデータを把握して、それらのデータをどのように生かせば今以上に顧客に価値を与えられるかということを、今までの業態にとらわれず、みんなが等しく考える。そのスピード感によって、次の時代を担える企業というのが決まるのだと思います」

 鶴田「企業のスピード感というのは、とんでもない速さで求められているのでしょうね。トヨタが東富士にコネクテッド・シティ『Woven City』を作るなどという話は、恐らく、トヨタの顧客でも瞬時には理解できないのではないでしょうか。企業のスピード感というのはそこまで求められている時代なのでしょう。その一方、自動車メーカーはこれからも必要とされるのかなと疑問に思いますね。自動車が好きな人は、走行性能だとか運転感覚だとか形などに惹かれるわけですが、それらはガソリンエンジン搭載の自動車で、メーカーごとの個性を発揮しながら実現されるものです。電動化と自動運転化が進めば、トヨタであろうが日産自動車であろうが、マツダであろうが、あまり変わらなくなってしまうと思うのです。それだからこそ、トヨタはコネクテッド・シティというものを考えたのだと思う。今日の経営者が考える以上に、DXという言葉の下に物事が進んでいるように思えます」

 トップが人や組織を変える

 安田「仰る通りです。冒頭にお話ししたテレビとYouTubeの関係など象徴的です。10年前にはお遊び程度のものでしたが、今はもうコンテンツが圧倒的に充実してきて、一気にテレビとの転換が起きたなと感じます。自動車業界でも、既に米電気自動車大手のテスラの時価総額がGMとフォードの合計を上回りました。テスラの“キモ”は自動車をソフトウエア的にアップデートしていくことにあり、改善速度が早いので今後一気に転換点を迎えるでしょう。そうした転換はどの産業でも起き得ることです。これからは、むしろデジタル分野とはかけ離れた領域の産業が一気に変わる時代になると思います。その根幹となる技術がAIであり、とくにディープラーニングの技術なのです。さらに、IoTやセンシング技術の普及によってオフラインデータをデジタルデータに変えられるようになるので、従来はデジタルデータを獲得できなかった産業もガラリと転換できます」

 鶴田「AIとかDXという言葉におじけづく必要はなく、勇気を出して一歩踏み出せば目の前に明るい未来が広がっているということですね。STANDARD社にはあらゆるジャンルのDXの課題解決方法がありますので、AIで何かしたい、DXを活用したいという企業の方は気軽に相談してほしいです」

 安田「ありがとうございます。最後に一番伝えたいことは、経営者が“本気でデジタルを使って顧客に付加価値を与えていない”というのは、もはや怠慢であるということです。DX・AI活用の推進をしていくためには、人や組織も変えていかないといけません。そのためには、トップが本気で取り組んでいく必要があります。われわれは、その取り組みを全力でサポートし『ヒト起点のデジタル変革をSTANDARDにする』というミッションを実現するために活動していきます」