採用は牽引・調和志向の見極めがカギ 個性生かす「One Team」のつくり方
昨年のユーキャン新語・流行語大賞に「One Team(ワンチーム)」が選ばれ、ラグビー日本代表チームが受賞した。今回の受賞は、ダイバーシティーを推進する上で、エポックメーキングなことになるに違いない。ワンチームというと、国内外を問わず同じ価値観の人が集まって、自己主張せずに協力し合い、チームとしての成果を上げることというイメージを持っている人がいる。(山口博)
採用にあたって、同じ価値観の人を採用しようとする企業は多い。「アラインしてください」というフレーズが飛び交っている外資系企業がある。ローカルオフィスがあれこれ主張せず、グローバル本社のやりかたに合わせてくださいという意味で使われる。滅私奉公は古くから美談とされる。
しかし、ラグビー日本代表チームのワンチームはそれらとは逆だ。国籍を問わず、異なる経験や背景を持つメンバーでチームをつくる。走力、持久力、パワー、忍耐力、器用さ、機敏さなど、ポジションごとに異なる必要とされる能力を発揮することで、成果を生み出す。異なる価値観の人が集まって、おのおのが個性を発揮して、成果を上げる。これは、ビジネスの世界でも必要とされている、ダイバーシティーそのものだ。
このように申し上げると、「それは限られた人数で行うラグビーという競技だからできることだ」「無数の人とかかわるビジネスシーンでは難しい」という声が聞こえる。確かに、異なる価値観を持った100人に対して、100通りの対応をして、100人の個性を発揮させようとすることは、難しい。しかし、モデル化をすれば、すぐにでも実施が可能になる。
最も簡単なモデルは、メンバーを牽引(けんいん)志向か調和志向か、どちらの傾向が強そうか見極めることだ。肉食系か草食系か、狩猟型か農耕型か、どちらかといえばどちらの傾向かを見当づければよい。何も難しい分析は必要ない。最も簡単で、しかも、相当程度見極めの確度が高いのが、一人でやることが好きそうだったら牽引志向、みんなで取り組むことが楽しそうだったら調和志向というように、見当付けることだ。そして、牽引志向には牽引志向の役割を、調和志向には調和志向の役割を発揮してもらえばよい。
一見、成果を上げるのは牽引志向と思いがちで、成果を上げるチームをつくるには、牽引志向だけを集めればよいと思いがちだが、そうではない。周囲と協力して成果を上げる調和志向も必要だ。逆に、働き方改革というと公私のバランスを取る調和志向が主たる担い手になると考えがちだが、そうではない。短時間で成果を上げたり創意工夫する牽引志向も働き方改革に貢献する。牽引志向、調和志向のどちらが良い悪いということではなく、どちらも成果を上げるために役割を果たすのだ。
私がサポートしている企業の中には、牽引志向のメンバーがほとんどなのだが、調和志向の強い取引先が増えてきたので、採用によって調和志向のメンバーを増やしたり、自分とは異なる志向を見極めたりそれに合わせて行動発揮する能力開発をしている企業もある。逆に、調和志向のメンバーが多いが、新規ビジネスを開発する必要の高まりに応じて、メンバーの牽引志向を強める取り組みをしている企業もある。たすき掛け人事をしていた合併企業が、ポジションごとに牽引志向の人材が必要か、調和志向の人材が必要かを見極めて人材配置することにより、適材適所のレベルを高めた例もある。異なる個性を生かして成果を上げるワンチームを実現したいものだ。
【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。