映画「嘘八百」で町おこし 脅威の経済効果でシリーズ化構想も

 
映画「嘘八百 京町ロワイヤル」のワンシーン (C)「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会
映画「嘘八百 京町ロワイヤル」には、京都のロケ地がふんだんに登場する (C)「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

 過疎化や少子高齢化で将来の財政運営に危機感を抱く地方自治体は多い。インバウンド効果を期待し、観光資源をアピールしたり、あの手この手で「ふるさと納税」をPRし自主財源の確保に務めるなど、その対策に全国の自治体が乗り出す中、大阪府堺市が、かつてない“映画による町おこし”を成功させ、話題を集めている。製作から公開まで一貫して市を挙げて支援し、映画をヒットさせ、観光収入の増加など大きな費用対効果を生み出した。この成功例に続編の製作が決定。第2弾では京都市が名乗りを挙げ、来年1月の全国公開に向け、準備を進めている。

 スター俳優が“町の魅力”をアピール

 人気俳優の中井貴一、佐々木蔵之介がW主演で“詐欺師”を演じた映画「嘘八百」。昨年公開され、全国でヒットした。堺市は宣伝費などを予算計上したが、映画製作・配給会社「GAGA」によると、「有名俳優の全国キャンペーンの影響は大きく、連日、テレビや新聞、雑誌などで堺市のロケ地などが紹介された。このPR効果は絶大で、市側の費用対効果は計り知れない」という。

 これまで、自治体が映画製作に協力した例は珍しくないが、「嘘八百」のように、脚本家など製作スタッフも堺市出身者で固め、ロケハンから撮影、さらに公開後のPR組織まで“オール堺”の支援体制で臨んだケースは、全国でも異例な取り組みとして注目された。

 堺市始まって以来の“全編オール堺ロケ”を敢行。堺市出身の茶人、千利休の幻の茶器をめぐる物語で、同市内の利休ゆかりの博物館や古民家、ホテルなどが協力しロケ場所を提供。博物館の学芸員など市職人や市民エキストラなど全市を挙げて協力体制が組まれた。

 劇場興収ランキングに異変

 GAGAによると、全国公開の大規模な映画の場合、興収ランキングでは、東京の大型映画館が上位を占めるのが通例だという。だが、「嘘八百」では1、2位が大阪市内のシネコンで、特筆されるのは3位から5位まで堺市内のシネコンが占めた他、ベスト10内に大阪から9館がランクインしたのだ。

 GAGA配給で、昨年、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」では、ランク上位は東京の映画館が占め、堺市内の映画館の最高位は全国で50位だった。

 「全国公開の作品では集客力のある東京の映画館が興収を稼ぎ出すのが当たり前で、『嘘八百』では、いかに地元・堺市民が一斉に協力して映画館を訪れたかが分かります」とGAGAは説明する。製作から公開まで行政と市民が一体となって映画を盛り上げ、ヒット作に押し上げたのだ。

 また、映画のロケ地として使われた堺市博物館の来館者数が映画公開後、月別の対前年比で約1.3倍に達するなど、観光客への周知といったPR効果は顕著に顕われたという。

 堺市での「嘘八百」の成功例を契機に、GAGAでは、第2弾を企画。続編となる「嘘八百 京町ロワイヤル」が、来年1月31日から全国公開される。

 堺に次いで京都が名乗り

 中井、佐々木の“詐欺師コンビ”は健在。今度は京都を舞台に、新たな“壮大なる美術品詐欺”を企てるというストーリーだ。

 京都市では、平成21年に、映画やテレビドラマなどのロケハンや撮影などに協力するための組織として「京都市メディア支援センター」を設置。これまでにも数多くの映画製作を支援してきたが、今回の「嘘八百」の続編では、前作の堺市での支援体制を教訓に、広報課や交通局など全市を挙げてバックアップしてきた。

 映画公開に向け、市営地下鉄で映画をアピールしたり、ロケ地巡りのマップを作ったり、スタンプラリーを企画するなど部局を超えて準備を進めている。

 また、前作での堺市のように、京都市民が数多くエキストラとして映画撮影に参加。行政と市民が一体となって京都市を全国にアピールしようという機運が盛り上がっているという。

 早くもシリーズ化? 第3弾の構想も

 「映画のロケ地としてのアピールは、有名な観光名所だけではない、京都の知られざる魅力を広く発信できるチャンスだととらえています。行政と市民がタッグを組むという貴重な機会も創出でき、堺市のように、大きなPR効果につながれば…」と同センターでは期待する。

 この堺市の成功例や京都市での取り組みに興味を示し始めている全国の自治体は少なくないといい、GAGAでは、「嘘八百」の長期シリーズ化構想を計画。早くも第3弾のロケ地誘致に名乗りを挙げ、動き出した自治体もあるという。

【プロフィール】波溝康三(なみみぞ・こうぞう)

ライター

 大阪府堺市出身。大学卒業後、日本IBMを経て新聞記者に。専門分野は映画、放送、文芸、漫画、アニメなどメディア全般。2018年からフリーランスの記者として複数メディアに記事を寄稿している。