自然保護か経済か カジノを含む統合型リゾート誘致で揺れる北海道・苫小牧

 

 自然保護か、経済か。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致合戦が本格化する中、誘致を検討中の北海道が苫小牧(とまこまい)市で開催した説明会では、参加した市民らから賛否の表明が続いた。道が優先候補地とする同市には、ハクチョウなどの飛来地として世界的に知られるウトナイ湖がある。環境への影響を懸念する声が相次ぐ一方、地域活性化を期待する意見に拍手が起きる場面もみられた。(寺田理恵)

 「環境あっての観光」

 「中国人観光客は決してカジノを北海道に望んでいない。環境あっての観光だ」

 長年、近くの観光地に勤めていたという女性が、外国人観光客と接した経験から誘致に反対した。その上で、ウトナイ湖に関して市の管理計画などがどうなっているかを尋ねた。

 これに対し、道経済部の幹部が「自然と調和できるかは大きな判断材料。意見を参考にしたい」と回答すると、会場は「答えになっていない」などの声でざわついた。

 説明会は、道民にIRについて理解を深めてもらおうと道が10月23日に開き、約170人が参加した。道では4月、引退間近だった高橋はるみ前知事が苫小牧市を優先候補地として、誘致の取り組みを重要とする考え方を公表しており、住民の関心は高い様子だ。

 「野鳥の楽園」影響は

 IRは、カジノだけでなく会議場やホテル、商業施設などが一体的に運営される。立地区域に決まれば、大規模な開発が行われる。

 説明会の冒頭、IRの概要を説明した道幹部も、道内に設置する場合の課題を「自然との共存」とし、ウトナイ湖の環境に対する配慮を挙げていた。

 ウトナイ湖は、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の登録湿地だ。渡り鳥の重要な中継地となっており、「野鳥の楽園」とも呼ばれている。

 苫小牧市の候補予定地は、その上流地域にある。このため、ほかの参加者からも「ウトナイ湖の現地調査はしたのか」「森林に不夜城ができる」などと誘致に反対する意見が次々と出された。ギャンブル依存症を心配する声も目立った。

 雇用創出に期待も

 一方、賛成意見の多くは「北海道経済にとって、またとないチャンスだ」「北海道を世界中にアピールできる」など、地域の活性化を期待する声だ。

 苫小牧市の人口は約17万人。本州と結ぶフェリーターミナルがあり、北海道の空の玄関口、新千歳空港にも近く交通アクセスに恵まれているにもかかわらず、近年は人口の微減が続いている。

 塾を経営しているという同市の男性は「子供たちが高校、大学卒業後に離れていってしまう。仕事をつくることが大切だ」と誘致による雇用創出を訴えた。この男性が「こういう所へ来ると反対派の声が大きい。たまに賛成意見を大きい声で言う者も必要だ」と発言を締めくくると、会場から拍手が起きた。

北海道がIRを誘致する場合の優先候補地で開かれた説明会。多くの参加者が発言機会を求めて挙手した=苫小牧市(寺田理恵撮影)

 道知事、年内にも判断

 IRを整備した場合の経済効果について、道は平成29年の調査を基に訪問者が年最大約860万人などと試算。苫小牧青年会議所が9月に開いた勉強会では、進出に意欲を示す米国系IR運営事業者3社が投資額を数千億円などと説明した。

 経済効果への期待は大きく、誘致に向けた道内の動きが活発化している。道経済連合会など経済4団体は10月21日、早期の誘致表明を道に求める緊急共同宣言を発表。同28日には、苫小牧市議会が誘致推進の決議案を賛成多数で可決した。

 IR誘致をめぐっては、最大3カ所とされる立地区域の認定を目指し、大阪府・市や和歌山県、長崎県、横浜市が名乗りを上げている。北海道の鈴木直道知事は道民の意見集約などを経て是非を判断するとしており、年内にも示される判断に注目が集まっている。