発端は「お家騒動」?! コクヨ・ぺんてるの提携交渉、事態は複雑化
国内文具最大手のコクヨ(大阪市)が突如、ぺんてる(東京都)の実質的な筆頭株主に躍り出たことで注目を浴びた業界内の騒動。ぺんてるは約4カ月を経た9月24日、株式譲渡に同意し、ようやく事態は落ち着きつつある。ただ、ぺんてるは業界2位のプラス(東京都)との提携を模索していたことも明らかになり、コクヨとの提携には「依然白紙」とつれない。縮小する国内市場でのシェア争いや、ぺんてる側の「お家騒動」も絡まり、事態は複雑化している。(山本孝志)
資本参加は突然に
「両社の持続的な企業価値の向上に向けて、ぺんてると具体的な取り組みを進めてまいります」
5月10日、コクヨがひっそりと出したぺんてるへの「出資」決定の発表資料に、驚きが広がった。何より驚いたのが、当のぺんてる。コクヨからぺんてるに連絡が入ったのは、発表直前だったためだ。
資本提携では当事者同士が交渉を重ねて合意し、共同発表する例が多いが、今回のぺんてるは蚊帳の外に置かれたまま自社株が買い取られた格好となった。ぺんてる側は「急な出資で遺憾」と強く反発。「創業来の独立性を堅持」などと態度を硬化させた。
出資の方法も異例だった。コクヨの発表資料の表題は「『投資事業有限責任組合』への出資に関するお知らせ」。ぺんてるへの出資、とは書かれていない点がポイントだ。
上場していないぺんてるの株には譲渡制限が付き、取締役会の承認を得なければ譲渡できない。そこで今回コクヨが取った出資方法は、投資ファンド「マーキュリアインベストメント」(東京都)が運営する「投資事業有限責任組合」の子会社化だ。
マーキュリア社はそれまでに保有していた、ぺんてる株37.45%を組合に移転。コクヨが約101億円を投じて組合を子会社化し、間接的にぺんてる株を手に入れた。
海外市場で連携へ
間接出資発表後の7月末、初めて公式の場に姿をみせたコクヨの黒田英邦社長は、ぺんてる側に通告しなかった理由を「投資会社との取り決めでお伝えできなかった」と釈明した。
コクヨの狙いは、ぺんてるの持つ海外販路とされる。昭和38年にぺんてるが発売した水性フェルトペン「サインペン」は、米国での見本市をきっかけにジョンソン大統領が愛用したとの逸話もある。これをきっかけに世界的にヒット、その後も世界で筆記具を売り続けてきた。
欧米を中心にブランドを築き、現在は約120カ国で事業を展開。連結売上高はコクヨの8分の1だが、海外売上比率は約66%にのぼる。
コクヨは、累計31億冊以上を販売している「キャンパスノート」が代表的な商品だ。海外では企業買収などでアジア7カ国に事業展開するが、主力のノートは輸送コストの高さ、ページ数やけい線など国ごとの形式や趣向の違いなどから浸透しにくく、海外売上比率は約7%にとどまる。
黒田社長は「国内市場が厳しいのは文具メーカー共通の課題。先方(ぺんてる)にもプラスになる関係を築くのが大前提だ」とラブコールを送る。
ぺんてるは今月24日、取締役会で、コクヨが子会社化した組合から、ぺんてる株を直接取得することを承認した。
ただ、同社広報は「ようやくコクヨと協議をする環境が整っただけで、業務提携をするかしないかは白紙の状態」と依然、つれない態度を見せる。
岩井コスモ証券のアナリスト、清水範一氏はぺんてるがコクヨとの業務提携に消極的な理由について「最大手のコクヨに主導権を握られるかもしれないという警戒心があるからではないか」とみている。
「お家騒動」が発端
ぺんてる株をめぐる今回の騒動。事の発端は、関係者によると、平成24年に起きたぺんてるの「お家騒動」にさかのぼるという。
創業家出身の前社長が取締役会で、役員定年を超えた数人の役員の退任を求めたところ、逆に業績不振を理由として前社長の緊急解任動議が提出された。
動議は可決され、前社長は退任。そして、同社で技術畑を歩んできた生え抜きの和田優・常務取締役が後任の社長に就任した。
前社長は社長復帰を目指し筆頭株主として活動を続けたが、支持が広がらず断念。昨年3月、自身が保有していたぺんてる株37%をマーキュリアインベストメントに売却した。マーキュリアはぺんてるに社外取締役を派遣。ぺんてる経営陣からマーキュリアに対し、保有株のプラスへの売却提案があった。
実は以前から、ぺんてる社内ではプラスとの提携話が進んでいたという。「28年秋頃までには両社でほぼ合意していた。その後株主の反対などで立ち消えになったはずだが、(コクヨとの提携話の浮上後)いつのまにか復活した」(関係者)
ぺんてる経営陣がマーキュリアに示したプラスへの株売却額は、マーキュリアが創業家から購入した際の価格を下回っていたという。マーキュリアはこの提案を拒否。コクヨに買収を打診したが、ぺんてる経営陣の反対を受けた。ぺんてる株の売却には取締役会での承認が必要で、「プラス派」が多数を占める取締役会では不利とみたマーキュリアは、コクヨにぺんてる株を持つ投資事業有限責任組合を子会社化させるという奇策に打って出た。
真の狙いは国内!?
ぺんてると海外市場での連携を目指すというコクヨ。ただ、コクヨの狙いについて別の見方も浮上している。
文具業界に詳しい関係者は「欧米の文具市場も先細りや巨大企業による寡占化が進んでいる。コクヨがぺんてると業務提携をしても海外進出は難しい」と分析する。欧米でもペーパーレス化でオフィスや教育現場の文具需要は低下。市場縮小は避けられず、進出しても得られるうまみは少ないという。
「業界内で今回のコクヨの動きは、国内のライバル、プラスとのシェア争いの一端と見る向きが多い」(関係者)。国内1位のコクヨ、2位のプラスは激しい戦いを繰り広げてきた。プラスとぺんてるの連携を阻止し、国内市場を死守する狙いが大きいという。ぺんてる株のプラスへの売却阻止で一致したコクヨとマーキュリアが手を組み、今回の提携が実現した、ということになる。
企業買収に詳しい中村・角田・松本法律事務所(東京都)の仁科秀隆弁護士は「投資会社が取得した株の価値を最大限に高めようとした行為。一般的ではないが、違法性や株主として問題のある行為とまではいえない」とし、「コクヨへの感情的な反発はあるかもしれないが、現状ではそれぞれに企業価値を高めるため、打開策を協議していくしかない」とみている。
文具業界に起きた波乱。着地点はなかなか見えてこない。
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