【市場の未来~豊洲移転1年~(中)】「日本の台所」だった築地市場、解体すすむ跡地も場外にぎわい

 
閉鎖された築地市場跡地=平成30年10月(上)。下は建物の解体が進む跡地=1日

 「日本の台所」として親しまれた巨大市場の面影はすっかりなくなっていた。

 築地市場(東京都中央区)が83年の歴史に幕を閉じてから6日で1年。現場は工事関係のトラックがひっきりなしに出入りしている。しかし、周囲は白い壁に覆われ、中の様子をうかがい知ることはできない。上空から撮影された写真を見ると、水産仲卸売場などがあった築地の象徴、扇形の建物などはすでに解体されていた。

 計画によると、立体駐車場など一部施設を除き、約160棟あった建物を来年2月までに取り壊す。東京都の担当者は「今年9月末時点で、工程の8割強まで進んだ」という。

 解体前に懸念された市場からの大量のネズミの流出もこれまで報告されていない。解体した建物の鉄骨や建具の一部を歴史資料として保存、展示する計画はあるものの、かつての光景がなくなり、寂しさは否めない。「築地ブランド」は消えてしまったのか。

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 「おいしいのあるよー」「マグロ、見てってー」。

 築地の工事現場のすぐ横では、豊洲へ移転する前後とさして変わらない、にぎわいが残っていた。

 商店街「築地場外市場」は南北約130メートル、東西約400メートルに400以上の飲食店や鮮魚、乾物などの店が軒を連ねる。ここ数年で観光地化が進み、新しい店も続々と誕生している。

 市場が豊洲に移転したことで、仕入れついでに、ふらっと立ち寄っていた業者の来場は減ったが、その一方で、穴埋めするかのように外国人観光客が増えている。最近は、ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が開催中ということもあって、観戦を目的に来日したとみられる欧米人の姿も目立つ。

 外国人観光客らは店頭に並んだカニやウニ、マグロなどを珍しそうに眺め、写真に収めている。流暢な英語で店に呼び込むベテラン店員たちは今も健在だ。

 しかし、ある市場関係者は「食べ歩きの市ではない。(ここは)物を買う市場で観光地ではない」と不満をこぼす。よく場外市場を訪れるという練馬区の無職男性(73)も「味が良くない店もある。観光地化して、観光客らを相手にして味が下がったのではないか」といぶかしがる。

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 市場移転後も活気を維持しようと、中央区が設置した場外市場の商業施設「築地魚河岸(うおがし)」。仲卸を経営母体とした小売店約60軒が入居する。建物内は清潔で、空調設備も整い、雨もしのげる。

 青果仲卸業と小売業を営む「定松」では新鮮な果物や野菜が並ぶ。同社の代表取締役で築地魚河岸事業協会の副理事長も務める牧泰利さん(54)は「移転によって準備期間があり、想定内外のこともあったが、結果的にこの1年でお客さんの数も売り上げも伸びている」と説明。施設の3階にも飲食店が入っており、「物販を伸ばさないと魚河岸本来の活気、目的を果たしたことにならない」と話す。

 店では、外国人観光客らが粒の大きいシャインマスカットに感嘆の声を上げていた。来年の東京五輪・パラリンピックに向けて、「こんなビッグチャンスはない」と牧さん。「世界の人は日本の食に対し期待値が高い。食に関わる築地はこれからも元気であり続ける。築地魚河岸はその象徴的な施設にならなくてはいけない」と築地ブランドのアピールに意欲を燃やしていた。((下)は明日10月16日に掲載します)