近ごろ都に流行るもの

河野大臣効果で人気 「ウッドウオッチ」は個性的で人にやさしい

 木製の腕時計が売れている。きっかけは8月21日、河野太郎外相(当時)が韓国外相との握手の際に身に着けていた時計だ。「金時計をひけらかすな」とのツイッターの批判投稿を、「竹製ですが、何か。」とリツイートで“瞬殺”した河野氏。腕時計は、フィリピンで行われたASEAN(東南アジア諸国連合)50周年の記念品で、「とても軽いのと(中略)手首のアトピーがひどくならないので、愛用中」とのコメントが共感を集めた。使いやすく、デザインも実にさまざま。時計選びに新たな楽しさが加わった。(重松明子)

自然の色と木目を生かした腕時計。虹色に光る黒蝶貝の文字盤(左下)との組み合わせなど、素材やデザインはさまざま=東京都港区の「TENSE」専門店(重松明子撮影)
自然の色と木目を生かした腕時計。日本発のデザインをはじめ、さまざまなタイプがある=東京都港区の「TENSE」
「TENSE」専門店で接客する坂井勝さん=東京都港区(重松明子撮影)
ウッドウォッチ「TENSE」専門店で接客する坂井勝さん=東京都港区(重松明子撮影)
「TENSE」専門店は、昔ながらの路地を抜けた“都心の秘境”に潜んでいた=東京都港区(重松明子撮影)
ウッドウォッチ「TENSE」直営店は、都心の隠れ家のよう=東京都港区
アンモナイト研究家でもある坂井勝さんがデザインした、化石モチーフのウッドウオッチは国立科学博物館でも販売されている
色艶の経年変化が楽しめるのもウッドウォッチの魅力。サンダルウッド製の新品(右)と4年半使用の同商品(左)(重松明子撮影)

 先月7日。旅先の仙台市内の百貨店で偶然、ウッドウオッチの催事を目にした。「わー! 河野大臣の時計ですか?」とたずねると、「違いますが、おかげさまで売れています」と女性スタッフ。

 文字盤を囲むレンガ色と薄茶が寄せ木に見える時計は「インレイドサンダルウッド」という1本の木をくり抜いたもので、着けてみると大ぶりなメンズ用ながら軽くて楽だ。高い物は20万円以上するが全体的に2~3万円が多い。ひとつ購入した。

 カナダ製の「TENSE(テンス)」というブランド。日本総輸入元の専門店が東京都港区高輪にあるという。帰京後に訪ねてみると、井戸が残る昔ながらの路地を抜けた隠れ家のような一室に、別世界が待っていた。

 おびただしい木の腕時計たちが息をひそめて、ゆったりした時間を刻む非日常空間。

 「500種類以上あります。同じ形なら文字盤の入れ替えもできるので、選択肢はさらに広がりますね」と、総輸入元の坂井勝代表(54)。電話予約(03・5475・8225)で1組あたり2時間もかけて接客している。「皆さん悩まれるので、それくらい必要」。併設のバーカウンターで飲み物も無料サービスしてくれて、私はベルギービールをいただく。時計の単価の割にとても贅沢(ぜいたく)な雰囲気まで味わった。

 坂井さんは大学時代にカナダとの文化交流団体の会長を務めていた経験を生かし、4年間の会社勤めを経て起業した。TENSEの輸入販売は平成13年に開始。デザインにも参画している。

 当初の素材はカナダ産のメープル主体だったが、木目や色に特長のある東南アジアやアフリカの丈夫な木材を使用するようになり「今はカナダを前面に出してはいません」。木目のしま模様が際立つゼブラウッド、チークやマホガニー、竹も…。さまざまな木材は木工家具の切れ端が活用され、使い込むごとに艶と深みを増すため、長く愛用することで風合いの変化が楽しめる。ムーブメントはクオーツも機械式も日本製だ。

 河野氏の影響を聞いてみると、「すごくあって、前年同期比2割増の売れゆき。仙台で買ってくれた方も5人に1人は大臣のおかげかな」と坂井さん。催事客の半数はリピーターだが、話題性で新規客が上乗せされた格好だ。

 有名俳優やスポーツ選手が愛用するなど知る人ぞ知る腕時計で、客層は20~80代の男女と幅広い。価格は2万円から。

 人と違ったものが欲しい、金属アレルギー、木婚式(結婚5周年)の記念に…など目的もさまざま。

 本国カナダよりも日本の方が売れているのは、「木のぬくもりを好む国民性に合っているからでは」と坂井さん。そして、「日本の縦型の男性社会の中では、腕時計選びは難しい」とも指摘した。「一目でわかる高級時計を営業マンが取引先に着けていくのはアウト…。木の時計なら、そんな面倒から解放される。それも都合がいいのでしょう」

 販路拡大の予定はなく今後も全国百貨店の催事が中心。直近では10月16~22日、大丸東京店で予定されている。

 「竹腕時計」でネット検索すると上位表示される、京都市の時計工房「デデグモ」のバンブー(竹)ウオッチ(9720円)も恩恵を受けていた。「3年前からの商品ですが、河野大臣の腕時計が話題になった最初の3日間で普段の20~30倍売れて、一時は在庫切れになった」と、電話取材に答えてくれた。

 木や竹はカジュアルな素材だけに、フォーマルでの着用はマナー違反? との不安も持たれていたが、外交の場で大臣が着けたことから“堂々解禁”といえよう。良くも悪くも、閣僚の影響力は意外な所にまで及ぶ。そんなことを示す一件であった。