「レベル4」は北国から 自動運転、福井・永平寺の廃線跡で最先端実験
国が来年の実用化を目指している車の「自動運転」。その実証実験が、曹洞宗大本山永平寺(福井県永平寺町)につながる遊歩道で行われている。ゴルフ場のカートを使い、6月から6カ月間の長期間運用で実用化に向けた課題点を検証するが、なぜ、この道で実証実験が行われるのか。キーワードは「過疎化」と「枯れた技術」だ。
6カ月間の長期運用
カチャッ、カチカチッ、カチャッ-。カートのハンドルが小刻みに動く。運転席の女性の手はハンドルには触れず、その下のレバーをつかんでいる。8月上旬、福井県永平寺町の遊歩道「永平寺参(まい)ろーど」を自動運転のカートが走り抜けた。
実証実験は6月24日~12月20日の6カ月間という長期に及ぶ。全長約6キロのうち、国道をまたぐ場所で2区間に分けて運行し、永平寺の門前町まで続く約2キロの区間を往復する。乗車は無料だ。
国の事業として産業技術総合研究所が中心に実施。昨秋には1カ月にわたり、運転手が乗らずに運行を遠隔監視する世界初の検証が行われた。自動運転の技術レベルを5段階に分けたうち、上から2番目のレベル4(高度自動運転)に相当する内容だ。
今回はレベル2(部分的自動運転)での走行だが、運転手がするのは安全を確認して発進させる程度で、それ以外はほぼ自動。取材時、視察に訪れたという自動車保険会社の女性社員は「今後、自動運転が浸透すれば、保険のあり方も変わる」と話し、注目度の高さをうかがわせた。
参拝列車の廃線跡を活用
実験が行われている永平寺参ろーどは、京福電鉄永平寺線の跡地。永平寺鉄道(後に合併)が参拝列車として大正14(1925)年に開業したのが始まりだが、戦後、モータリゼーション(車社会化)で参拝客がバスやマイカーに奪われて路線の経営が悪化。平成14年に廃線に至った。
その後、地元の永平寺町は、廃線跡を遊歩道として整備。そして28年から、県とともに国の地方創生拠点整備交付金を活用し、道の拡幅など自動運転の実験場として活用できる環境を整えた。同町によると、沿道の人口は27年で2828人と、5年前から200人近く減り、過疎化が進んでいる。そこで「自動運転技術で、どんな交通サービスが可能なのか実現性も含め検証」(町の担当者)するため実験場化に踏み切った。
「枯れた技術」が花
その後、産総研が29年3月、自動運転の「実証評価地域」の一つに選定。産総研の実験では、「電磁誘導式」という技術が使われている。路面に磁力を放つ電線を設け、カートが感知し、それに沿って走行する方式。永平寺参ろーどには電線が埋め込まれている。
センサーやカメラで障害物などを認知したり、衛星利用測位システム(GPS)で位置情報を確認したりして走る最先端技術ではなく、「枯れた技術」とも呼ばれるものだ。
この技術は、実験にカートを提供するヤマハ発動機が平成8年から商品化し、ゴルフ場のカート専用道などで導入されてきた。
「枯れた」というと、マイナスイメージを抱きがちだが、年月を経て検証が十分に行われ安全性が確立されている、という側面がある。産総研の担当者は「電磁誘導式ならば沿道の木々が茂ったり、多少の雪が積もったりしても走行に支障なく、事業性が高く最適と判断した」と打ち明ける。
来年5月までに施行される改正道路交通法では、一定条件下でドライバーに代わりシステムが運転するレベル3(条件付き自動運転)の走行が可能になり、法的な環境整備も進む。新たな未来を開く技術が、名刹(めいさつ)に続く道から発信されそうだ。
関連記事