【5時から作家塾】スーパーフード「海藻」が欧州で注目 オランダで普及を牽引する3社の戦略

 

 話題となった「オランダ育ちの海藻パスタ」

 数年前、オランダに住む日本人から「オランダの大手スーパーで昆布が買える」と聞きつけてオーガニック食品売り場をのぞいた私は、形は細長いものの非常に昆布に近い色つやの乾物の海藻が「パスタ」として売られているのを見つけた。フォントの怪しい日本語で「野生の有機海藻」とまで書いてある。

 値段も手ごろだったので試しに買ってみると、その形も扱いやすく、昆布とほぼ同じ味のだしがとれ、大西洋のピュアな海水育ちという点も気に入ったので、後日日本に「逆輸入お土産」として持って行った。

パスタとして売られている海藻。ちょっと怪しいが日本語も添えられていた(筆者撮影)

 調べてみると、この海藻はスペインやアイルランドなどの沿岸の岩場のみに育つhimanthaliaという品種だった。

 メーカーは、2015年にクラウドファンディングに大成功して設立されたオランダSeamore社。創立者のベテラン起業家ウィレム・ソダーランド氏は、その前年に家族旅行で訪れたスペインのイビザ島のレストランで、完全にパスタだと思って食べたものが海藻だったことに驚愕し、商品としての成功を確信。ネット上で集めた資金でアイルランド沿岸に養殖場を設営し、低カロリーでかつビタミン・ミネラル・繊維質・タンパク質に優れた、スパゲティの代用品として商品化したところ、ほどなく国内最大手のスーパーチェーン「アルバート・ハイン」での販売が決定するなど急速に販売網が拡大した。

 現在同社はその後開発された海藻ベーコンや海藻パンなどを含めた各製品を、周辺諸国を含む9か国1000店舗以上で販売している。

Seamore社製品の例(同社HPより)

 ソダーランド氏は、「海藻は、健康志向とサスティナビリティという食に関する二大トレンドの両方のニーズに応えるスーパーフードであり、未来の食品です」と語る。食文化が貧しいと言われることの多いオランダだが、野菜と果物の消費促進やフードロスへの取り組み、動物愛護や環境問題へのソリューションとしての菜食主義など、先述の二点に関しては独自路線で目覚ましい進化を遂げている。そんな同国で海藻が消費者の興味を引いたのは順当だったかもしれない。

 「環境への負荷の14%が食料の栽培・飼育に起因している現代においても、地球の表面の71%を占める海から、私たちは食料の2%しか得ていません」と問題を提起する同氏はまた、栽培に淡水も土壌も肥料も殺虫剤も必要としない「地球上で最もサスティナブルな食料」である海藻が、将来深刻な食糧不足が見込まれる人類にとって素晴らしい栄養源となることを見込んでいる。同時に「海藻に含まれる『ウマミ』と呼ばれる美味しさを引き出す成分により、塩分摂取を減らすと同時に料理をアップグレードできる」と、味に関するPRも忘れない。

 課題とビジネス戦略は

 とはいえ、オランダ人にとって馴染みのある“海藻”と言えば、愛好家のために市場の片隅にひっそり売られている植物のアッケシソウと、寿司ブームでやっと知られてきた海苔くらい。「世界のすべての食卓に海藻を」と普及に努める同社は、ウェブサイトやSNSで有名シェフや料理ブロガーと手を組んでキャッチーな新しいレシピを多く発信し、消費者の好奇心にアピールしている。また、コカ・コーラ社傘下の有名スムージーブランド・英イノセント社と提携して海藻入りスムージーを開発するなど、海藻との距離を縮めるべく「消費者の海藻教育」に努めている。

 逆に「消費者に馴染み深い料理」に潜り込んだ「ダッチ・ウィード・バーガー」

 海藻を新しい食材として調理法を大々的にアピールしているSeamore社とは対照的に、既に国内の消費者にとって馴染み深い料理に海藻を使用する戦略を採ったのは、環境活動家マーク・クルスダム氏発の「ダッチ・ウィード・バーガー」。100%ヴィーガン食材、低カロリー、低糖質など「罪悪感ゼロ」を売りにした海藻バーガーや海藻ナゲットは、菜食主義者を中心に支持を広げ、現在オランダの人気ベーグルチェーン「ベーグルズ・アンド・ビーンズ」を含む200店舗で提供されている。

 同氏は、「(ハンバーガーやナゲットなら)消費者は既に持ち方も食べ方も知っているから、安心して手に取ってくれます。あとはその中に入っている新しい素材を紹介するだけ」と語る。

「ダッチ・ウィード・バーガー」(同社公式Instagramより)

 変わり種の起業家による海藻養殖「Zeewaar」社

 そのダッチ・ウィード・バーガーに海藻を供給しているのは、アメリカ人弁護士とノルウェー人起業家という変わり種の女性二人による「オランダ初の海藻養殖場」を擁するZeewaar社。オランダに縁のあった二人は、天然の海藻が食用やその他の用途のために乱獲され海洋生態系を乱していることを憂慮し、オランダ沿岸に海藻の養殖場を設立。現在100%養殖ものの昆布やワカメなどを、主にレストランや食品会社向けに出荷している。こちらは養殖に専念し、小売りとPRは外食産業に委ねた形だ。

 

 他にも北海における漁業の可能性を探索するNPO団体「北海漁業財団」が2014年から真昆布の養殖に乗り出したり、2017年に当時の経済担当国務次官補が今後の食糧政策の方針として、「海藻のような健康的でサスティナブルな食糧の普及を促進する」と述べたり、海藻食はじりじりと国の上層部も巻き込み波及しているが、需要の拡大にはまだまだ企業のアピールが必要と言われている。

 サスティナブルなスーパーフード・海藻の世界への普及のため、食生活に欠かせないものとして海藻と付き合ってきた大先輩として、日本にもできることがあるかもしれない。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

【プロフィール】5時から作家塾(R)

編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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